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随筆・ノンフィクション(3)





「ONとOFF」 

著者・発行出井伸之  新潮文庫 2002
感動度実用度☆☆☆
娯楽度☆☆ファッション度☆☆☆
感 想ご存知ソニーの会長、出井氏の話題の本です。ソニーの社内向けホームページに書いていたエッセイを集めた本だそうです。期待して読み始めましたが、この人の文章はあんまり面白くありませんね。ただ、ひとつひとつのエッセイは短くて、読みやすいと言えば読みやすかったです。

仕事に関する「ON」の時間と、仕事以外の「OFF」の時間の蓄積が、よい循環を生み出すという主張には全く同感です。多くの日本の中央官僚みたいに「ON」だけでは、いい仕事はできませんよね。この本で驚いたのは、出井氏の「OFF」における守備範囲の広さです。ワイン、車、芸術・文化、音楽、ゴルフなどなど、話題がとても豊富です。話題は豊富ですが、イマイチ面白くないのが難点ではありますが。それと、本書で出井氏は自らの妻のことを「奥さん」と呼んでいます。これには、ちょっと幻滅させられました。



「素人のように考え、玄人として実行する」

著者・発行金出武雄  PHP研究所 2003
感動度☆☆実用度☆☆☆☆
娯楽度☆☆ファッション度☆☆☆
感 想著者はアメリカのカーネギーメロン大学教授で、ロボット工学の世界的権威です。その著者のアドバイスで、「専門家は知識と経験が邪魔して柔軟な発想ができないことがある。物事を考える時は素人のように素直に、それを実行に移す際は玄人として緻密に」という言葉は説得力があります。研究の成功は「シナリオを書く力」に大きく左右され、その「シナリオ」を書く基本は「先を見通す力」だとも述べています。これは研究だけじゃなく、あらゆる問題解決にあてはまることでしょう。後半には、著者のアメリカでの経験に基づく「いいプレゼンテーションの仕方」や「いいレポートの書き方」なども載っていて、結構参考になりますよ。



「検疫官」 

著者・発行小林照幸  角川書店 2003
感動度☆☆実用度☆☆☆
娯楽度☆☆ファッション度☆☆☆
感 想女性で初めて検疫所長になった仙台検疫所の岩ア恵美子さんについて書かれた本です。もともと耳鼻科医だった岩アさんは、50歳を過ぎてから熱帯医学を究めたいと勉強をし直し、インドやパラグアイで医療活動に携わります。帰国後、その経験を買われて検疫所長に抜擢されます。その後、ウガンダで日本人としては初めてエボラ出血熱の治療にも関わりました。

という経歴から、さぞ面白い本だろうと期待していましたがイマイチでした。岩アさんの仕事に対する情熱やチャレンジ精神には学ぶべきものがありますが、はっきり言ってこのくらいの人は世界にはザラにいると思います。彼女はエボラの現場には二週間行っただけだし、それも名目上はWHOからの派遣医師ですが、実際は日本の厚生省がお金を出して押し込んだ形になっています。まあ、日本だから岩アさんのような人が目立っちゃうんでしょうね。彼女のような人が目立たないくらいの日本になってほしいです。

この本でひとつ印象に残ったのは、岩アさんが熱帯医学を志すきっかけになったというアメリカ人医師の次のような言葉です。「私は自分の人生を25年周期に区切っている。最初の25年は自分のため。次の25年は家族のため。そして、最後の25年は社会のために使いたい。」



「質問する力」

著者・発行大前研一  文藝春秋 2003
感動度☆☆☆実用度☆☆☆☆
娯楽度☆☆ファッション度☆☆☆☆
感 想「日本人には論理的思考能力が欠けている、もっと『質問する力』をつけなければいけない」という大前さんの最近のベストセラーです。彼の言っていることは全くその通りで、政策提言も納得できるものが多いのですが、こういったことは何か既に言い古された感じがします。言ってみれば、この本にはあまり新しい内容がありませんでした。別の言い方をすれば、今の日本の問題は、解決策が見つからないところにあるのではなく、大前さんが言うような解決策があってもそれを実行できないところにあるのです。早い話が政治の無能さ、そういう政治を許してきた我々国民の責任でしょう。そこで、国民が「質問する力」を身に付ければ変わっていくのでしょうが、どうやってこれを身につければいいのかは、イマイチこの本からは見えてきませんでした。僕自身は、世銀に来てから随分この「質問する力」、「論理的に考える力」がついたような気がします。そうでなければ、この職場では仕事ができません。

この本で面白かったのは、明治維新の小栗忠順の話です。小栗は、最初の円とドルの交換レートを決めるアメリカとの交渉で、論理でアメリカに対抗したというのです。双方の金貨と銀貨の重さで交換レートを決めると合意した際、日本の金貨の金純度の高さを指摘して、レートの補正をアメリカ側に呑ませました。大前さんによると、小栗は論理という世界共通語でアメリカ人と渡り合えた最初の日本人だったそうです。小栗以来、アメリカと論理で対抗できた日本のリーダーは、果たしてどれくらいいたんでしょうか。



「不撓不屈」

著者・発行高杉 良  新潮社 2002
感動度☆☆☆実用度☆☆
娯楽度☆☆ファッション度☆☆☆
感 想ご存知、高杉良の経済小説です。飯塚毅という非常に優秀な税理士が、その優秀さのゆえ当局の弾圧を受け、自分の税理士事務所から逮捕者が出てしまいます。その飯塚氏が大蔵省、国税庁、検察庁に真っ向勝負を挑み、最後は裁判で全面勝訴するという彼の闘いの記録です。舞台は昭和30〜40年代ですが、これはほぼ確実に実話でしょう。

飯塚氏は一貫して中小企業の節税対策を指導していましたが、その節税指導を当局は「脱税教唆」だとしたのです。焦点は、企業の利益を従業員に一時的に報償として与え、それを企業が従業員から借り受けるという「別段賞与」と呼ばれる節税対策です。ちょっと難しいのですが、当時の法制度では明らかに合法なのに、国税庁の官僚達は法よりも恨みを前面に押し立てて飯塚氏を弾圧します。この本によるとこの事件は国会でも取り上げられ、当時国会議員一年生の故・渡辺美智雄氏が自民党から離党勧告を受けてまで飯塚氏の弁護にあたり、国税当局の行き過ぎを追及しています。そのやり取りを読むと、少なくともこの時代は日本の国会での論戦が機能していたんだと分かります。それと、渡辺美智雄という代議士は、随分と骨のある人だったんですね。

高杉良の経済小説は、以前も何冊か読んだことがあります。彼の「挑戦つきることなし」という本も、確かクロネコヤマトの社長が運輸省・郵政省と闘う話でした。



「理想の医療を語れますか」

著者・発行今井 澄  東洋経済新報社 2002
感動度☆☆☆実用度☆☆☆☆☆
娯楽度ファッション度☆☆☆
感 想医者として参議院議員として、日本の医療制度改革に命を賭けた故・今井澄氏の遺作です。海外の例も参考にして、日本の医療制度の問題点と医療改革に向けた処方箋を鋭く論じています。今井氏によると、日本の医療制度には次のような問題点があります。
1.医者や病院に関する客観的な情報が公開されていないため、患者は医者を選べない。
2.日本の病院は、職員配置が少なすぎる。
3.外来患者をたくさん診なければ経営が成り立たない医療費の支払いシステム。
4.医師の資格更新制度の不備。
5.医師の聖職者・専門家意識、患者の自己責任放棄。
6.医師のコミュニケーション能力不足。

さて、このような問題を解決するため著者の考える処方箋は以下の通りです。
1.医療情報を徹底的に公開する。
2.身近で信頼できる「顧問医」制度をつくる。
3.病院病床を半減し、職員配置を倍にする。
4.医療保険は都道府県単位にする。
5.医療費の支払い方式は定額払い制度を基本にする。
6.薬価は定額払い方式のもとで自由売買にする。

日本の医者のコミュニケーション能力不足というのは、医師にもよりますが、かなりの場合当てはまるんじゃないでしょうか。僕の経験からも、患者に説明もせず患者の意見も聞かず、治療をしたり投薬をしたりという医師が結構いるような気がします。コミュニケーション能力というのは、医師ばかりでなく、全ての職業にとって大事ですよね。最後に今井氏の言葉で締めくくります。本当に惜しい人を亡くしました。

「連帯を求めて孤立を恐れず。力尽きて倒れることを辞さないが、力尽くさずして倒れることを拒否する。」



「The Story of Chiune Sugihara〜6000人の命のビザ」

著者・発行プロジェクト・チウネ  三友社出版 1992
感動度☆☆☆☆実用度☆☆☆☆
娯楽度☆☆ファッション度☆☆☆
感 想これは英語の教材です。日本にいた頃、時々家庭教師を頼まれることがあり、よくこの本を英語のテキスト・ブックとして使っていました。この本を選んだわけは、杉原千畝のストーリーを通して、英語だけではなくもっと大事なものを生徒達に学んで欲しかったからです。それは、平和の尊さとか、勇気の大切さとか、語学力だけではない本当の意味の国際感覚とかいったものです。

杉原千畝は、第二次大戦が始まろうとしていた頃、リトアニアの日本領事館に勤務していた外交官でした。そこでナチスから追われてきたユダヤ人を救うため、彼らに日本へのビザを発行し続けたのです。当時、日本はドイツと同盟関係にあり、東京の外務本省の意に逆らっての、ビザ発行でした。後に本国日本に戻った杉原千畝は、本省の命令に背いたということで、外務省を首になります。外務省が千畝の人道的功績を無視し続ける中、彼はイスラエル政府から表彰を受けました。千畝はかつて、迫害から逃れてきたユダヤ人にビザを発行し続けたことを、「人間として当たり前のことをしたにすぎない」と言いました。自分の所属する組織や上司や国家の言いなりにならず、常に「人間として当たり前のこと」を追求できる強い人間に憧れます。



「緒方貞子という生き方」

著者・発行黒田龍彦  KKベストセラーズ 2002
感動度☆☆実用度☆☆☆
娯楽度☆☆ファッション度☆☆☆
感 想前国連難民高等弁務官の緒方貞子さんの半生を綴った本です。「女は人生長いんだし」と、子育てと親の介護を終えてから、63歳の時に国連難民高等弁務官に就任しました。現在70歳を過ぎても日本政府のアフガニスタン担当特別代表を務めるなど第一線で活躍されています。僕も彼女のファンです。ちょっと気になった部分がいくつかあります。ひとつは、イスラム教諸国からの難民がなぜ多いのかという問いに答えて、「宗教に特別な理由があるとは思えません」と緒方さんが言っているのに、著者はイスラム教を非寛容の宗教だと決め付け、「全てのイスラム教国は、自国の崩壊だけでなく、難民問題を他の国にまで及ぼし続ける可能性を秘めている」と述べている点です。僕が思うに、これは著者のイスラム教に対する危険な偏見で、このようなことを書いては、緒方さんに対しても失礼にあたると思います。こういう本って、緒方さんの許可を得て出版しているんでしょうか?

さて、この本に出てくる緒方さん自身の言葉をいくつか紹介します。
「(日本は)何ができるんだということを早く自分で決めて、私達はこういうことをやりますというかたちで計画しないといけません。頼まれてから、それからゆっくり考えてなんていうことでは間に合わないと思います。」
「人間相手の仕事には柔軟性が必要です。」
「世界的な規模で本当に優れた人をどう育てるか。それが今後の社会の課題です。」
「国と国を越えた、人と人との関係のうえに立った新しい平和づくりをしていかないといけません。」


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