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小説・文学(1)





「今夜は眠れない」

著者・発行宮部みゆき  角川文庫 2002
感動度☆☆実用度
娯楽度☆☆☆☆ファッション度☆☆☆
感 想飛行機の中で肩が凝らずに気軽に読める本はないかなあと、成田空港で買ったのがこの本です。話は、ある家庭の妻に「放浪の相場師」と呼ばれた人物から5億円の財産が寄贈される、というところからスタートします。これをキッカケに、夫はこの相場師と妻との関係を疑い、家庭崩壊の危機を迎えるのです。しかし、この財産寄贈の裏にはある計画が隠されており、中学一年の息子が真相究明に乗り出すという展開です。全体の文章は、この息子の視点で書かれています。宮部みゆきのミステリーは、過去にも何冊か読んだことがあります。ミステリーとは言っても、この「今夜は眠れない」には、殺人が出てきません。足を骨折する怪我人が一人登場するだけです。僕は、こういうバイオレンスのないミステリー物の方が基本的には好きです。



「迷宮」

著者・発行清水義範  集英社文庫 2002
感動度☆☆☆実用度☆☆
娯楽度☆☆☆☆ファッション度☆☆☆
感 想これは不思議な小説です。清水義範の本で今まで読んだのは、全てユーモラスな作品だったのですが、これは本格ミステリーです。しかし、話の構成が、今まで読んだどのミステリーとも、ひと味もふた味も違っているのです。内容をちょっと紹介すると、まず、ある残忍な殺人事件が起こります。その事件について書かれた様々な文章(犯罪記録、週刊誌報道、手記、手紙、供述調書など)を、ある記憶喪失の患者が、治療という名目で次々に読まされていきます。この記憶喪失の患者とは誰なのか?どうして記憶を失ったのか?記憶喪失の治療を行っている治療師とは誰なのか?殺人事件との関係は?などなどが最後の最後まで明かされません。ミステリーなので、これ以上は書きませんよ。さて、興味が湧いた人は、この「迷宮」を読んでみて下さい。



「機関車先生」

著者・発行伊集院 静  講談社文庫 1997
感動度☆☆☆☆実用度☆☆☆
娯楽度☆☆☆☆ファッション度☆☆☆☆
感 想何年か前に読んだこの本を、ワシントンの我が家の本棚から取ってきて、飛行機の中で読み返してみました。初めて読んだ時の爽やかな感動が甦りました。時は第二次大戦後十数年で、場面は瀬戸内の小島にある児童わずか7人の水見色(みずみいろ)小学校です。そこに、口のきけない先生が赴任するという設定です。「口をきかん」のと、「体格が大きく機関車みたい」なので、児童たちはこの先生を、親しみをこめて「機関車先生」と呼びます。この先生との心の交流を通して、島の児童たちが「本当に大切なものは何か」を学んでいきます。水見色小学校の校長先生も、とてもいい味を出していて、「いいか、君たちが大人になった時に、正しいと思ったらそのことをはっきり口に出して言える人になってほしい」、という彼の言葉は心に深く残ります。自分は果たしてそういう大人になっているだろうか?柴田錬三郎賞に輝いた感動の名作です。



「ダイスをころがせ!」

著者・発行真保裕一  毎日新聞社 2002
感動度☆☆☆実用度☆☆☆☆
娯楽度☆☆☆☆☆ファッション度☆☆☆☆
感 想読後感爽やか、軽快な政治小説です。新聞記者をやめた34歳独身の天知達彦が、リストラで商社をやめた高校の同級生・駒井健一郎を秘書として、自分達の故郷から衆議院選挙に打って出ます。この二人は昔の恋敵という設定で、友情、恋愛、家庭など様々なドラマが選挙戦に織り込まれています。題名は、「有権者は皆等しく手のひらにダイスを握っている。そのダイスをころがさないことには何も始まらない」という天知の呼びかけから来ています。天知の手づくりの選挙戦は、選挙にかかるお金を一円単位までHPで公表したりと、とても好感が持てるものです。彼の主張も納得できるものが多く、僕だったら、こういう候補者に絶対に投票します。公職選挙法や政治資金規正法の勉強にもなる本です。是非ご一読を。以下は、主に天知や駒井の発言を集めた、この本に出てくる名言の数々です。

「政治とは、継続の姿勢なのだ。」
「選挙は、政治家の姿勢が試される時なんかじゃない。有権者である国民の姿勢が試される時なんだ。」
「あの人と握手をしたから、知り合いが薦めているから、笑顔が優しそうだから、雰囲気がいいから、と大事な一票を投じるような有権者が多くいたのでは、民意を政治に反映しようはない。」
「自分のようなごく普通の男にも、志のある仲間に恵まれれば、ここまで戦えるのだということを、日本中の政治に希望をなくしかけている人たちに伝え、政治は我々の身近なところにあるものなのだと力強くアピールできたらいい。」
「たった一人の女を幸せにする勇気を持てないやつに、国民の未来を語る資格なんかあるものか。」



「猛スピードで母は」

著者・発行長島 有  文藝春秋 2002
感動度☆☆☆実用度
娯楽度☆☆☆ファッション度☆☆☆
感 想第126回芥川賞受賞作。文學界新人賞受賞の「サイドカーに犬」とのカップリングです。はっきり言って、不思議な本でした。面白いとも言えるし、つまらないとも言えるような気がします。こういうのを「純文学」って呼ぶんでしょうか?ストーリーは、よく車を猛スピードで飛ばす母と、小学生の息子の日常を描いたもので、感動的な展開は何らありません。でも、母を気づかう感受性の強い息子の心理描写は、とても文学的なのかもしれません。

文中に「米をうるかす(しばらく水に浸けておく)」という表現が出てきます。息子は、「『うるかす』という言葉が標準語でないと知った時に、自分が過ごしたある時間を否定された気がした」というのです。僕の故郷の八戸でも、「うるかす」という言葉を使います。著者の長島氏は北海道の室蘭の人だそうですが、この「うるかす」っていう方言は、北海道でも使うんですね。



「告発」

著者・発行鬼島紘一  徳間書店 2000
感動度☆☆☆☆実用度☆☆☆
娯楽度☆☆☆ファッション度☆☆☆
感 想ゼネコン汚職の内幕を題材にした社会派の現代小説です。著者は建設会社勤務の経験があるそうで、さすがに不正競争入札に関する手口の詳細な描写は現実味があります。鉄道用地管理公社からゼネコンへの天下りという癒着構造が元凶で、そこから「落札予定価格」や競争相手の「入札保証金」の額を事前に知るというやり方が描かれています。ちなみに、この「入札保証金」の額から、相手の入札価格を割り出せるんだそうです。最後は、談合に反旗を翻した父親を殺された経験を持つ若者が、不正を告発するという内容です。旧国鉄債務の大半は、「親方日の丸」の放漫経営と、ゼネコンとの癒着により競争入札が機能せず、工事価格が不当につり上げられたことによってもたらされたという記述もあり、やはりフィクションとは思えない本でした。



「マシアス・ギリの失脚」

著者・発行池澤夏樹  新潮文庫 1993
感動度☆☆☆実用度☆☆
娯楽度☆☆☆☆ファッション度☆☆☆
感 想谷崎賞受賞作、文庫で600ページ以上の長編です。南西太平洋に浮かぶ主要な三つの島からなる、人口7万人の「ナビダード民主共和国」という架空の国の大統領「マシアス・ギリ」の物語です。政敵との駆け引きや、日本など大国に翻弄されたりという現実のような政治的・国際的側面と、亡霊や霊力の影響を受ける神秘的・呪術的な面がミックスされた不思議な物語でした。

「国の運営も車の運転もさほど違わない。要するにぶつけなければいいのだ。あとはゆっくりだろうがスピードを出そうが、それは勝手。スピードを出すと人をはねたり他の車にぶつかったりしがちだ。それだけのこと。バックシートでうるさいことを言う連中は無視する。なんと言っても運転席に坐っている者が一番偉いのだ」とは、ギリ大統領の言葉。孤独な権力者の本音かもしれません。



「オロロ畑でつかまえて」

著者・発行荻原 浩  集英社 1998
感動度☆☆☆実用度☆☆
娯楽度☆☆☆☆☆ファッション度☆☆☆☆
感 想とにかく笑える、村おこし小説です。東北の山奥、「オロロ豆」が名産の「牛穴村」の青年団が、村おこしをしようと東京の広告代理店にアイデアを依頼します。彼らの悪知恵で、牛穴湖にウシアナザウルス(ウッシー)を出現させてしまうという、はっきり言ってめちゃくちゃな展開です。その後マスコミが大騒ぎし、村にCNNの取材まで来てしまいます。結末は読んでのお楽しみと言うことで、ここでは明かさない方がいいでしょう。小説すばる新人賞受賞作です。



「天空の蜂」

著者・発行東野圭吾  講談社 1995
感動度☆☆☆☆実用度☆☆
娯楽度☆☆☆☆☆ファッション度☆☆☆
感 想東野圭吾のミステリー作品は、ほとんど読んでいます。最近も、「秘密」、「白夜行」、「片想い」などをたて続けに読みました。個人的には、初期の頃の作品で、スキージャンプを題材にした「鳥人計画」や、高校野球を扱った「魔球」などが好きでした。しかし、彼の作品の中で私が一番の傑作だと思うのは、この「天空の蜂」です。犯人は、全国の原発の操業停止を要求して、北陸にある原発の上に自衛隊から盗んだヘリコプターを遠隔操作で落とそうとします。無人のはずのそのヘリコプターには、犯人も予想外だったことに、偶然子供が乗り込んでいた、というスリリングな展開です。原発を巡る社会問題を鋭くえぐった「社会派作品」でもあります。それにしても、いつも思うのですが、最近のミステリーって話がとても複雑で専門的です。作品を書く前の取材も大変なんでしょうね。



「希望の国のエクソダス」

著者・発行村上龍  文芸春秋 2000
感動度☆☆☆☆実用度
娯楽度☆☆☆☆ファッション度☆☆☆
感 想村上龍の話題作なので、読んだ人も多いことでしょう。私が一番好きなのは、パキスタンとアフガニスタンの国境付近で、日本人の少年が地雷処理中にケガをするという出だしの部分です。この少年に影響を受けて、多くの日本の中学生がバンコク経由でカラチへ行こうとするんですが、私も仕事でパキスタンへ飛ぶ時は、よくこのルートを利用してました。インターネットを通じて中学生が連絡を取り合い、80万人の集団不登校を引き起こしたりと、現在の日本社会が抱える問題を鋭く反映している近未来小説です。圧巻は、中学生の代表がインターネット中継で国会演説をし、「この国には何でもある。だが、希望だけがない。この国は全体が養鶏場のようになることでしょう。餌だけはきちんと毎食与えられて、狭い鶏舎に閉じ込められた鶏のような人間だけになって、略奪だと知らないまま略奪され尽くすことになるでしょう」と語るくだりです。個人的には、結末はイマイチの感じがしましたが、まだ読んでない人には是非お薦めです。


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