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小説・文学(2)





「イン・ザ・プール」

著者・発行奥田英朗  文藝春秋 2002
感動度実用度
娯楽度☆☆☆☆ファッション度☆☆☆
感 想この本は、娯楽度高いですよ。謎の精神科医師「伊良部一郎」が、いろんな心の病を大して何もせずに結果的に治してしまうという短編が五話詰まっています。どんな話かというと、水泳中毒の男が主人公の表題作「イン・ザ・プール」、ストーカーに追いかけられるという被害妄想のナルシスト女性の話「コンパニオン」、ケータイのメール中毒に陥った高校生が出てくる「フレンズ」などなどです。伊良部ははっきり言ってハチャメチャですが、患者たちは何故か伊良部のところに通うことによって、精神的に安定してきてしまうのです。そのあたりの機微は、本を読んでみないと分かりません。伊良部を支える看護婦のマユミさんも、結構いい味出しています。



「合い言葉は勇気」

著者・発行三谷幸喜  角川文庫 2002
感動度☆☆☆実用度☆☆
娯楽度☆☆☆☆ファッション度☆☆☆
感 想何かの書評で「産業廃棄物の不法投棄と戦う住民の話」とあったので、 社会派の小説だと思い込んで買ったのがこの本です。実際は社会派どころか、娯楽小説でした。小説というか、2000年に日本で放送された人気ドラマのシナリオだそうです。偽物の弁護士が本もの以上に活躍し、住民を率いて環境裁判で勝ってしまうという内容で、はっきり言ってかなり楽しめました。この偽弁護士、本職は売れない俳優ですが、時々なかなかいいセリフを吐きます。ドラマも面白かったんでしょうか?誰か、見た人いますか?



「タマリンドの木」

著者・発行池澤夏樹  文春文庫 1999
感動度☆☆☆実用度☆☆
娯楽度☆☆☆ファッション度☆☆☆☆
感 想恋愛小説なんて柄ではないのですが、この本はある理由で読んでみようという気になりました。その理由とは、タイのカンボジア難民キャンプで働く日本のNGOの女性が主人公だからです。その女性が、一時帰国の間に偶然出会った東京のサラリーマンと恋に落ちます。そのサラリーマンは、女性のNGOに機材を提供する会社の技術者でした。二人とも、盛岡の出身という設定です。

女性は、難民キャンプでの仕事を「他人のためとか、助けるとか、奉仕とか、そういうものじゃ長く続かない。自分にとって一番居心地のいい場所がキャンプだ」とし、この仕事をやめることは考えられないという。さあ、このサラリーマンはどうするか。結末は教えませんが、爽やかな恋愛小説で好感が持てました。そういえば、何か似たような恋愛をずうっと昔にしたような気がします。ちなみに、題名の「タマリンドの木」とは、この女性が働く難民キャンプに生えている大きな豆科の木です。



「最 悪」

著者・発行奥田英朗  講談社文庫 2002
感動度☆☆☆実用度
娯楽度☆☆☆☆☆ファッション度☆☆☆☆
感 想この本は文庫で600ページを越える長編小説で、かなり読み応えがあります。とは言っても内容の面白さに引き込まれて、数日であっという間に読み終えました。かなりお薦めです。

物語の主役は、小さな町工場の経営者、都市銀行のOL、若いチンピラです。全く縁もゆかりもないこの三人のそれぞれのストーリーが、並行して進行していきます。それぞれの問題を抱えるこの三人の人生が交差した時、それこそ「最悪」の事態が起きてしまいます。その「最悪」の事態とは何なのかというのは、読んでからのお楽しみです。お薦めとは言っても、犯罪小説なので読後感はあんまりいいものではありませんでした。ほんの些細なつまづきや瑣末な判断ミスが、これほど最悪な結末になるという人生の薄情さに、恐ろしささえ感じました。

この奥田英朗という作家の作品は初めて読みましたが、なかなかいい文章を書きますね。登場人物の心理描写や状況説明がなかなかリアルで、臨場感がありました。彼の作品をまた読んでみたいという気分にさせる一冊でした。



「ゴールドコーストの遺品」

著者・発行山村美紗  文春文庫 1996
感動度☆☆実用度☆☆
娯楽度☆☆☆☆ファッション度☆☆☆
感 想オーストラリアが恋しくなって買ってしまった本です。シドニー、ゴールドコースト、アデレード、パースと様々なオーストラリアの地名が出てきて懐かしくなりました。でも、ブリスベンはほとんど出てこなかった。中味の方は、推理小説です。ある日本の女優が、シドニーの国際映画祭に参加中に失踪するという設定です。推理作家であるその女優の母親が、娘を捜して日本とオーストラリアを行き来します。その母親のもとに、娘の字でファックスが送られてきます。それには以下のような暗号めいた文章が書かれていました。

「ママ、怒らないで、ひとつきだけ、我まんして 私をたすけて! ママ、おねがい!」

実は、これは娘が母親に密かに犯人名を告げるために書いた文章で、ある点に注目すれば、本文を読まなくてもこの暗号文から娘を連れ去った犯人の名前が分かります。分かった人、いますか?その他、オーストラリアの東海岸と西海岸の時差を使ったトリックなどもあり、推理小説としてはまあまあでした。スラスラ読めてしまうところがいいですね。



「君こそ心ときめく」

著者・発行軒上 泊  集英社文庫 1990
感動度☆☆☆☆実用度
娯楽度☆☆☆☆ファッション度☆☆☆☆
感 想もう一昔前に読んだ軒上泊さんのハードボイルドですが、最近読み返してみました。主人公のジョージ・ハイダーは、黒人の父親と日本人の母親を持つハーフです。彼は元ニューヨーク・ヤンキースのピッチャーで、引退後はニューヨークでイエロー・キャブの運転手をしています。彼は、日本のプロ野球にも在籍していたことがあります。そんな彼が急遽、神戸に呼ばれます。彼が以前在籍していたパ・リーグのチームで今期大活躍しているアメリカ人投手の妻が、突如行方不明になったからです。彼の使命は、そのアメリカ人投手の妻を密かに捜し出すこと。しかしジョージには、5年前に失踪した彼自身の日本人妻・ユイコを捜し出すというもうひとつの使命がありました。果たして、ジョージはこの二つの難題を解決できるのか。エンディングは心が震えるほど感動的です。ハードボイルドが好きな方、推理小説が好きな方、恋愛小説が好きな方、野球小説が好きな方にお薦めします。ちなみに、題名の「君こそ心ときめく」というのは、「You Are My Thrill」というジャズの曲目の日本語訳です。ユイコが売れないジャズ歌手だったこともあって、この曲がジョージとユイコのテーマ・ソングになっています。「You Are My Thrill」を「君こそ心ときめく」と訳すとは恐れ入ります。とてもカッコいい名訳ですね。



「風が吹いたら桶屋がもうかる」

著者・発行井上夢人  集英社 1997
感動度☆☆実用度
娯楽度☆☆☆☆☆ファッション度☆☆☆☆
感 想この本は面白いですよ。仕事で疲れた頭をリフレッシュさせるには、こういう本が最適です。牛丼屋で働くシュンペイは、理屈屋のイッカクと超能力者のヨーノスケと3人で住んでいます。彼らのもとに、ヨーノスケの超能力を頼って、難題を抱えた美女がやって来ます。その難題を、ヨーノスケが超能力と言うよりは低能力で解決しようとし、イッカクは一見理詰めだが実は無茶苦茶な推理で解決しようとします(このイッカクの推理がひとつの読みどころなんです)。この本には、こういうワン・パターンの笑える短編が7話おさめられています。

ちなみに「風が吹いたら桶屋がもうかる」という題名は、本文とは全然関係ありません。7つある短編の題名が、それぞれ「風が吹いたらほこりが舞って」、「目の見えぬ人ばかりふえたなら」、「あんま志願が数千人」、「品切れ三味線増産体制」、「哀れな猫の大量虐殺」、「ふえたネズミは風呂桶かじり」、「とどのつまりは桶屋がもうかる」となっていますが、こちらも短編の内容とは全く関係ありません。強いて言うなら、一人の美女の悩みを聞いてあげたことがきっかけで、上記の三人組は、彼女の友達、またその友達と、次々に美女に無理難題を押し付けられます。そういう所から、「ひとつの出来事が巡り巡って思いがけない所に影響を与える」という意味の「風が吹いたら桶屋がもうかる」という題名を用いたのかもしれません。



「幸福の船」

著者・発行平岩弓枝  新潮文庫 2001
感動度☆☆☆実用度☆☆
娯楽度☆☆☆☆ファッション度☆☆☆☆
感 想どうしてこの「幸福の船」を買ったのかというと、直接の理由は、いつか全日空の機内で読んだ日本の週刊誌の書評コーナーで、この本が薦められていたからです。それに、以前僕は「青年の船」に乗って2ヶ月くらい東南アジアを船で巡ったことがあったので、船旅の小説も面白そうだなあと思ったのです。

で、この「幸福の船」ですが、結構よかったですよ。文庫で500ページを越える大作ですが、会話文が多いこともあってか、アッという間に読み終えてしまいました。豪華客船で約3ヶ月の世界一周というのが、この小説の舞台です。婚約破棄をしたばかりの船医の娘が主人公ですが、その他の船客に起きるいろいろな事件も、読み応えがあります。恋愛あり憎悪ありで、「ああ、何ヶ月も同じ船の中で暮らしていると、こういうことってあるよね」と、自分の「青年の船」の思い出が甦るような気もしました。この船旅の後、幸福を掴むのは誰でしょうか。最後はミステリー風な展開です。是非読んでみて下さい。最近は飛行機ばっかりですが、いつかまた僕ものんびりと船旅をしてみたいですね。



「アフリカの蹄(ひづめ)」

著者・発行帚木蓬生  講談社文庫 1997
感動度☆☆☆☆実用度☆☆
娯楽度☆☆☆ファッション度☆☆☆☆
感 想この小説は、アパルトヘイト後期の南アフリカが舞台で、白人極右勢力が絶滅したはずの天然痘ウィルスを使って黒人社会を滅亡させようとする、実に恐ろしい物語です。たまたま南アフリカの大学病院に留学していた若き日本人医師が、黒人達を救うために勇敢に白人支配層に立ち向かうという筋書きです。果たして、正義は勝つのか。作田信という主人公の日本人医師が、とてもカッコよく描かれています。厳しい異国の地で、命をかけても自分の信念をどこまでも貫こうとする。こういう男に自分もなりたいです。

実はこの本は何年か前に読んだものだったのですが、最近アメリカでは生物兵器としての天然痘と、その対策としてのワクチン接種がよく話題になるので読み返してみました。天然痘の恐ろしさがよく分かりました。著者の帚木氏は現職の医師だそうで、医療関係の小説を多く書いています。ちなみに、題名の「アフリカの蹄」とは、アフリカ大陸の底に位置する南アフリカの別称だそうです。確かソマリアは、「アフリカの角」と呼ばれます。



「発言者たち」

著者・発行清水義範  文春文庫 1996
感動度☆☆☆実用度☆☆☆
娯楽度☆☆☆☆ファッション度☆☆☆☆
感 想清水義範氏の本を初めて読んだのは、「国語入試問題必勝法」というヤツでした。あれは、どこかの空港のビジネス・ラウンジで文庫本の無料配布をしていて、たまたま手にした本でした。あれ以来、ユニークな内容とユーモラスな文体が気に入って、時々彼の作品を読んでいます。で、この「発言者たち」もとても変わった小説でした。何が変わっているかというと、小説のテーマです。出版社へお叱りの手紙を送ったり、TV局に抗議の電話をしたり、新聞や雑誌に投稿したり、パソコン通信で意見を述べたりという普通の人々の発言欲が、この小説のテーマなのです。ユーモアの中にもドキリとさせる鋭い指摘が盛り込まれ、面白くてアッという間に読んでしまいました。

僕が「うんうん」と頷きながら読んだのは、ある地方在住の老人が出版社のミスを指摘する場面です。その老人の発言を少し拾ってみます。
「出版社にいる編集者というのが、どういう資格を持ってこの国の言論に携わっているのかと言えば、ただその会社の入社試験に通ったというだけのことだ」
「東京にだけ知識人がいると思われちゃあ、たまらんね。東京なんて、たまたま出版社が集中しているだけのことで、知識人が集中しているわけではないんだから」
「東京のことを日本全体のことのように言うのはやめてほしいですな」


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