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小説・文学(3)





「アフリカの瞳」 [NEW]

著者・発行帚木蓬生  講談社 2004
感動度☆☆☆☆☆実用度☆☆☆
娯楽度☆☆☆☆ファッション度☆☆☆☆☆
感 想帚木蓬生氏のアフリカ・シリーズ第二弾。前回の「アフリカの蹄」は天然痘の話でしたが、今回はHIV/AIDSです。いずれも南アフリカが舞台で、今回はちょうど僕自身の南アフリカ出張中に読んでいたので、妙にリアリティがありました。内容は、現地に溶け込んだ日本人医師が、南アフリカ政府のニセ薬政策や、アメリカの製薬会社の理不尽な新薬の治験と戦うというものです。現地人の信頼を一身に背負う信念の男、主人公の作田医師がとにかくカッコいい。途上国を相手に仕事をする僕の、目指すべき理想像と言っても過言ではないでしょう。エイズ問題ばかりではなく、南北問題や開発援助を考える際にも参考になる一冊で、無条件にお薦めします。ちなみに「アフリカの瞳」という題名は、「この国(南アフリカ)はアフリカの中でも特殊です。いろんな問題がこの国に集約されています。この国にいるとアフリカがよく見える。アフリカだけでなく、世界がよく見える」ということだそうです。



「となり町戦争」

著者・発行三崎亜記  集英社 2005
感動度☆☆☆実用度☆☆
娯楽度☆☆☆ファッション度☆☆☆
感 想不思議な小説でした。ある日、町役場からの広報で、となり町との戦争が始まったことを知らされる。戦争は事業として淡々と進められ、死者も出ているらしいが、実感がないままに終わっていく。この戦争は何なんだ。戦闘が見えないし、リアルじゃない。自分の町で起きているのに、まるで遠い砂漠の国で起こった戦争のニュースを聞いているみたいだ。

筆者はこの小説で何を訴えたかったのでしょう。この本を読んだひとりひとりは、戦争についてどう考えるんでしょうか。「自分の町と、となり町の戦争」、「どこかの大国と砂漠の遠い国の戦争」、「ニュースになる戦争と、ならない戦争」、「リアルな戦争と報道で知る戦争」、「大義のある戦争と事業としての戦争」、僕はそんなことをいろいろと考えさせられました。やっぱり「不思議な小説」としか形容できません。第17回小説すばる新人賞受賞作だそうです。



「定年ゴジラ」

著者・発行重松 清 講談社文庫 2001
感動度☆☆☆☆実用度☆☆
娯楽度☆☆☆☆☆ファッション度☆☆☆
感 想成田の本屋でユニークなこの題名が目に留まり、思わず買ってしまいました。ふつうの家族を題材にした温もり溢れる重松氏の小説は、これで何冊めだろうか。この本も期待に違わず、ちょっぴりの切なさと沢山の温かさに満ちていました。

この本は、開発から何十年も経つニュータウンで定年を迎えたオジサンたちの話です。暇を持て余すオジサンたちが、家族やコミュニティや自分の生活のことで悩む普通の日々が題材なのです。短編の連作という形式で、八話から成っています。僕自身、まだこういう定年後の生活の話を読むには年齢的に早いような気もしましたが、かなり楽しめました。著者は1963年生まれですから、僕と同い年です。どうして、定年後のオジサンたちの気持ちがこんなによく描写できるのだろうかと、いたく感心しました。ちなみに「定年ゴジラ」という題名は、映画のゴジラが街の建物を踏み壊すように、オジサンたちが自分たちのニュータウンの模型を踏みつぶすという第一章の話から来ています。



「メリーゴーランド」

著者・発行荻原 浩 新潮社 2004
感動度☆☆☆実用度☆☆☆
娯楽度☆☆☆☆☆ファッション度☆☆☆☆
感 想荻原浩の本は久しぶりに読みました。前に読んだ「オロロ畑でつかまえて」も面白い作品でしたが、この「メリーゴーランド」も傑作でした。主人公「遠野啓一」は、民間会社から故郷の市役所に転職した地方公務員。彼が勤める人口7万人の駒谷市には、「アテネ村」というバブル時代に作られたテーマパークがあります。赤地続きの「アテネ村」の閉鎖を求める市民団体に対し、市長は四年後の単年度黒字という目標をぶち上げ、「アテネ村リニューアル推進室」という部署を新設したのです。「遠野啓一」はこの部署に配属され急に忙しくなります。さて、彼はアテネ村を救えるのか?

最後の方で、このアテネ村の存続を争点として市長選が行われます。現職市長の対抗馬は、アテネ村閉鎖を強く訴える市民派の女性候補。その女性候補の応援ボランティアとして、「遠野啓一」の妻が夫に内緒で活動していたのです。さて、市長選の行くへはどうなるのか?啓一夫婦の将来はどうなるのか?とまあ、いろいろ興味を煽っておきましょう。

この本は、よく練られたストーリー性とユーモラスな文章の中に、現代の日本社会が抱える問題点を鋭くブレンドさせています。それは、ハコモノ行政や役所と業者の癒着といった問題から、役所の事なかれ主義、職場でのお茶汲みやオフィスでの禁煙といったものまで含まれます。少なくとも、日本の地方公務員は必読の一冊でしょう。



「翼はいつまでも」

著者・発行川上健一  集英社文庫 2004
感動度☆☆☆☆☆実用度☆☆
娯楽度☆☆☆☆ファッション度☆☆☆
感 想筆者は青森県の十和田の出身で、この小説の舞台も十和田です。八戸出身の僕としては、もうこれだけで読む前から期待していたのですが、その期待に応えて余りある素晴らしい青春小説でした。主人公は中学三年の野球部員。その彼がある日、三沢の米軍放送で聞いたビートルズの曲から勇気をもらい、生まれ変わるのです。それ以来、今まで言えなかった事が言えるようになり、行動に起こせなかったことができるようになります。理不尽な先生たちとも勇気を出して対等に渡り合ってしまうのです。彼の十和田湖での初恋物語は、もう本当に感動モノです。僕なんかはこれを読んで「ああ、中学時代に戻りたいなあ」、「青春っていいなあ」と本気で思ってしまいました。ちなみに、この小説は「本の雑誌が選ぶ2001年度ベスト1」と「第17回坪田譲治文学賞」を受賞しているそうです。おススメですよ。



「あんたのバラード」

著者・発行島村洋子 光文社 2004
感動度☆☆☆実用度☆☆
娯楽度☆☆☆☆ファッション度☆☆☆☆
感 想この本には女性が好みそうな切ない恋愛短編小説が、八話つまっています。こういう本は普段あんまり読まないのですが、この本を読んでみて「こういうのも嫌いじゃないなあ」と思いました。この本は成田空港で見つけ、題名に惹かれてつい買ってしまったのです。そう、あの懐かしい「世良公則&ツイスト」の大ヒット曲です。

実は、この本に納められている八話全部のタイトルに、懐かしいヒット曲の題名が使われているのです。そのヒット曲が小説の中にいろんな形で織り込まれていました。どんな曲かというと、上田正樹の「悲しい色やね」とか、チェッカーズの「星屑のステージ」とか、BOROの「大阪で生まれた女」とか、最後はツイストの「あんたのバラード」です。どれも懐かしい曲ホかりですが、ひとつだけシャ乱Qの「いいわけ」が入っています。これだけちょっと新しい曲のような気がしました。

著者の島村洋子さんは、1964年生まれですから、僕とひとつ違いです。この本に取り上げられた曲は、彼女の青春時代と重なっているということですが、そのまま僕の青春時代とも重なっています。あの頃、こういう歌をよく聞いたり歌ったりしていたっけ。ちなみに、世良公則の歌では「Love Song」という歌が一番好きでした。



「空中ブランコ」

著者・発行奥田英朗 文藝春秋 2004
感動度☆☆実用度
娯楽度☆☆☆☆ファッション度☆☆☆☆
感 想奥田氏による「精神科医・伊良部シリーズ」の第二作目です。先週発表された今年の直木賞の受賞作でもあります。前作の「イン・ザ・プール」が面白かったので、この「空中ブランコ」が直木賞の候補にノミネートされる前に購入していました。でも、この本が直木賞と聞いた時はちょっと驚きました。なぜって内容がハチャメチャ過ぎるから。

前作同様この本は、精神に支障をきたした患者が精神科医の伊良部を訪ねるという同じパターンのいくつかの短編小説で構成されています。表題作になっているのは、空中ブランコを飛べなくなったサーカス団員の話ですが、僕が一番面白いと思ったのは、小説を書き出すたびに「あれっ、このストーリーは以前に書いたんじゃないか」と感じて小説が書けなくなる女性作家の話でした。でも全体的には前作「イン・ザ・プール」の方が面白かったような気がします。伊良部医師の診察パターンに慣れてしまったせいかもしれませんが。

それにしても、100キロを超える巨漢の伊良部医師の容姿を表現する文章を読むたびに、「これは絶対に、ロッテからメジャーに行き、日本球界に戻ってきた伊良部投手がモデルなのではないか」と密かに思っています。奥田さん、そうですよねえ。



「選挙参謀」

著者・発行関口哲平 角川書店 2001
感動度☆☆☆☆実用度☆☆☆☆
娯楽度☆☆☆☆☆ファッション度☆☆☆☆
感 想最近読んだ小説の中では、文句なしに一番面白かったです。小説の舞台は、神奈川県のある中都市の市長選挙。三期目を目指す現職候補に、30代の若い新人市会議員が挑みます。この新人は、「現職市長が業者と癒着している」と、市政の浄化を有権者にアピールします。政策も容姿も話術もこの新人の方が現職に優っており、現市長は強い危機感を募らせます。そこで市長は、「選挙参謀」を生業とする遊馬大介という男を大金で雇い入れるのです。

遊馬大介は、現職が選挙で勝つのは最早不可能だと見切りをつけながらも、ある秘策を考え出します。それは、新人候補が選挙で勝っても、市長になれないように仕掛ける秘策中の秘策です。それが具体的にどういう秘策なのかを知りたい人は、是非この本を読んでください。とにかく面白かったです。

ちなみに著者の関口氏は、野末陳平、アントニオ猪木、舛添要一などの選挙参謀を実際に務めたことがあるのだそうです。「国会に卍固め」というアントニオ猪木の選挙コピーを考えたのも、この関口氏だとか。選挙を知り尽くした人が書いた選挙小説、絶対にお薦めです。



「博士の愛した数式」

著者・発行小川洋子  新潮社 2003
感動度☆☆☆☆実用度☆☆☆
娯楽度☆☆☆☆ファッション度☆☆☆
感 想いろんな書評のサイトによると、この本よく売れているみたいです。数学を題材にしたちょっと不思議な小説でしたが、読後感も悪くないし、個人的には楽しめました。

小説の主人公は、事故で記憶を失った年老いた天才数学博士です。彼の記憶は80分しか持たないのに、数学に関する知識は何故か全く失われていません。その博士の生活を支えるために雇われた家政婦と、その家政婦の息子のやりとりが、小説の主な中味になっています。当然ながら、この三人の会話は数学に関するものがほとんどで、かなり知的です。でも、博士は子供にも分かるように話すので、数学が苦手な人にも理解できる内容になっていると思います。それから、この小説は随分と勉強にもなりますよ。以下に、この小説から新たに学んだことを書き留めておきます。

※AとBという二つの数字があって、Aの約数の和がBになり、Bの約数の和がAになる数字の組み合わせを、「友愛数」と呼ぶ。例は220と284。

※Aという数字の約数の和がA自身になる数字を、「完全数」という。例は6や28。



「家なんか建てなきゃよかった」

著者・発行見延典子  講談社 2003
感動度☆☆☆実用度☆☆☆
娯楽度☆☆☆☆ファッション度☆☆☆
感 想アメリカに家を買ったばかりなので、こんな本を読んでみました。この本によると、「家を建てると家族に悪いことが起きる」という迷信があるらしいのです。まあ、それは単なる迷信としても、自分の家を持つとなると何かと大変で、いろいろな問題が生じてくるのは分かるような気がします。僕も、「アパート暮らしの方が気楽だったなあ」と思う時はやっぱりありますね。

この本には、どれも家を建てたり買ったりした家族をテーマにして、九つの短編小説が収められています。読み物としては、結構楽しめました。小説の中では、建築家とのトラブルや、騒音や境界線を巡る近所同士のもめごと、あるいはシックハウス症候群などが題材となっていて、「家なんか建てなきゃよかった」と一度は思う人ばかりです。それを家族で乗り越えるハッピー・エンドな話もあるし、逆に悲劇的な話もありました。まあ、気の持ちようもあるでしょうが、僕自身の実生活では「家を買ってよかった」とポジティブに行きたいですね。



「サンタのおばさん」

著者・発行東野圭吾  文藝春秋 2001
感動度☆☆☆実用度
娯楽度☆☆☆ファッション度☆☆☆☆☆
感 想クリスマスを題材にした素敵な絵本です。ミステリー作家の東野圭吾氏は、こういう本も書くんですね。杉田比呂美さんのイラストもいい味を出しています。

内容はこんな感じです。今年もクリスマスが近づいて、フィンランドのある村で各国代表のサンタクロースを招いて「サンタ会議」が開かれました。今年の議題は、「引退を決めたアメリカ・サンタの後任に、女性のサンタを認めるかどうか」です。各国のサンタが喧喧諤諤、会議は大混乱になります。いつもは口下手な日本サンタが、「サンタクロースは父性の象徴だ」と主張して女性サンタ誕生に反対したり、黒人のアフリカ・サンタが、「白い肌、白い眉、白い髭というサンタのイメージは欧米人が作り出したものだ。姿形は大した問題ではない」と女性サンタを擁護するなど、各国サンタのこの会議での発言は、なかなか面白かったです。結局この会議の承認を受けて、世界初の女性サンタは誕生します。それがアメリカ代表っていうのも、何か示唆的です。もしこの物語に続きがあれば、日本に女性サンタが誕生するのは、ずうっと後のことでしょうね。



「夢は荒れ地を」

著者・発行船戸与一  文藝春秋 2003
感動度☆☆☆☆実用度☆☆
娯楽度☆☆☆☆ファッション度☆☆☆
感 想600ページを越える長編小説でしたが、飛行機の中で大部分を読みました。舞台はカンボジア。国連のカンボジア暫定統治機構(UNTAC)の時代にPKOとして派遣された越路修介という日本の自衛隊員が、任務終了後、自衛隊を除隊し、しかも日本にいる妻子を捨てて現地に残ります。やがて彼は、内戦で荒れまくったクメールの大地で、無謀ともいえる「夢」を見つけます。それは、子供達の人身売買というカンボジアの「闇」を叩き潰すというものでした。彼は、その「夢」の実現のためにいろんな支持者を得て、いくつもの危ない橋を渡りながら奮闘を続けます。でも結局最後は、カンボジアの闇の深さに屈して、壮絶な死を遂げるのです。

僕はカンボジアには行った事がありませんが、それでもこの小説はかなり綿密な取材に基づいていることが分かりました。この本には、クメール人の性格やカンボジアでの人身売買のしくみから、現地の公務員の汚職体質、日本のODAにまつわる問題点、地雷除去のやり方や地雷除去を巡る利権、そして日本の大使館員の態度まで、実にリアルに書かれていると思いました。ただひとつ納得がいかなかったのは、PKO任務の終了後に、越路修介が妻子を捨ててまでカンボジアに残った理由です。彼に言わせれば、それは「カンボジアの風がそう囁いたから」だそうです。気障なセリフですが、そんなことで家族を捨てるなよ。


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