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GLOBAL PERSPECTIVE

ネット時代の地方自治
〜アジア太平洋都市サミットに参加して〜




 2001年5月6日から8日にかけてアメリカ・ワシントン州のシアトルで行われた第3回アジア太平洋都市サミットに参加してきました。このサミットはもともと「様々な都市問題に対処するには海外の自治体とも情報交換をし、ともに学びあう機会が必要だ」というオーストラリア・ブリスベン市のスーリー市長の提唱で始まったものです。

 1996年の第1回、99年の第2回ともにブリスベーンで開催し、今回はブリスベーン以外では初の開催となりました(以降はブリスベーンとアジア太平洋地域の都市で2年に1度交互に開催する予定です)。シアトルは人口約52万人で、マイクロソフト、ボーイング、スターバックス、アマゾン・ドット・コムなど多くの多国籍企業の本社を抱えており、会場の外のロビーではシアトルのIT企業が商品の展示を行ったり、スターバックス・コーヒーがサーブされたりしていました。

 今回のサミットのテーマは「電子自治体」で、アジア太平洋地域87の都市から22人の市長をはじめ自治体関係者を中心に数百人の参加者がありました。日本からは広島市の秋葉市長、北九州市の末吉市長、八戸市の中里市長などが参加されていました。

<電子取引の優位性>

 6日の夕方から歓迎レセプションがあり、7日と8日のお昼まで様々なセッションが行われました。7日最初の基調講演は、シアトルに本社を置くマイクロソフトの前副社長ハーボルド氏のものでした。彼は電子商取引の優位な点はスピード、コスト削減、それにいつでもどこにいても取引ができる利便性の3点だと言っていました。コスト面での具体例は、例えば銀行でのお金のやり取りは、窓口では1回あたり$1.25、ATMでは$0.24かかるのに、ネット・バンキングだと$0.02しかかからないこと。航空券の発行でも、実際に紙のチケットを発行すると$12.20かかるのに、eチケットだと$0.09で済んでしまうことを挙げていました。自治体業務でも、証明書をもらうのにわざわざ役所に出向いて、窓口に並んで、申請用紙に記入して、というのはもう全くの時代遅れだと強調していました。

<電子自治体の発展度>

 数年前から「電子自治体」も世界中で出現してきているが、その発展度はまちまちで、ハーボルド氏は大雑把に分けて3段階の発展度があると言っていました。

 第一段階の自治体はホームページを持っているだけ。
 第2段階になると、各種証明書の発行など簡単なものはオンラインでできるようになる。
 第3段階の自治体は、完全に「デジタル・エコノミー」に組み込まれていて、調達や入札その他の業務がほぼオンライン化されるということでした。

<電子自治体実現に大事な三点>

 ハーボルド氏はさらに、これから「電子自治体」を目指すのに大事な点として、第一に市長のリーダーシップをあげていました。市長がこういったテクノロジーの進歩を敏感に感じ取り、積極的に政策に取り入れている自治体はやはり強いということです。

 第二にプライオリティ(優先順位)の設定で、自治体としてインターネットを使って何をするのかをきちんと定義し、優先順位をつけて着実に前進することが必要なのです。

 第三にいわゆる「デジタル・ディバイド」の問題で、コンピューターを使えなかったり持っていなかったりしてインターネットにアクセスできない市民に対しても対処策を講じることは不可欠です。最後にその国の電信電話政策の規制緩和も大事だと付け加えていました。

<スマート・シティを目指すブリスベン>

 続いてパネリストの一人としてステージに立ったブリスベンのスーリー市長は、「これからは国家ではなく都市が主役だ」といきなり切り出し、市の電子政策についてプレゼンテーションをしました。その中で印象に残ったのは、「スマート・シティを目指して」という2010年を目標にした電子自治体についての長期戦略を策定したこと、2002年末までに市役所のお金のやりとりの伴う全業務をオンライン化すること、そしてホームページなどに投資できない中小企業や中小の販売店などに対して市が技術的・資金的援助をしていることなどでした。それにしてもこの市長は小柄な体格ながらいつもダイナミックで印象的です。

<シアトル市民の82%がインターネット利用>

 7日午後の最初の分科会は、シアトル市のチャコイアンIT局長がプレゼンテーションする「デジタル・ディバイドをいかに克服するか」というテーマの会合に出ました。チャコイアン氏は日本からの参加者に対するリップ・サービスか、プレゼンテーションの始めに「グローバリゼーションがイチローの輸入を可能にした」と言いイチローの写真をスクリーンに映していました。

 シアトル市は最近全市民に対して地域別、人種別、性別、年齢別、所得別、学歴別にどのようなテクノロジーへのアクセスがあるのかを調べる詳細な調査を行ったそうです。これは「デジタル・ディバイド」の現状を明らかにし、それを克服する政策のターゲットをしぼるためです。当然の結果ながら、低所得層、低学歴層、高齢層がコンピューターへのアクセスが低く、人種別では圧倒的に白人のアクセスが多いことがわかりました。しかしながら、シアトルの全市民のうち実に82%がインターネットにアクセスできるという驚異的な実態が明らかになりました(全米では42%に過ぎない)。これは実に多くのIT産業が立地するシアトルならではという気もしますが、市の政策がこれに寄与しているのも見逃せません。

 シアトルでは市内50箇所の公民館、図書館、近隣センターなどで市民が無料でインターネットを利用できるほか、インターネットの研修も受けられるのです。研修の際の注意点としてチャコイアン氏は、「高齢者に対するコンピューター研修では、なるべく年齢の近いインストラクターを選ぶのが鍵だ。高齢者は17や18の子に教えられたくはないものだ」と言っていました。

 最後に「このサミット期間中に万が一駐車違反の切符を切られても大丈夫ですよ。シアトル市警への罰金は世界中のどこからでもインターネットで払えますから」だって。

<街づくりはラグビーと同じ>

 午後二つ目の分科会は、ニュージーランドの先住民マオリ族のモエケ氏のプレゼンテーションを聞きにいきました。彼はマオリ放送協会のトップです。いきなりマオリ語の歌で始まり歌で締めくくるという驚きのプレゼンでした。放送協会でアナウンサーも兼ねているのか実に絶妙の話術で、大変面白かった。印象的だったのは「街づくりはラグビーと同じだ。勝つためには前進しなければならないが、ただしボールは後ろに投げ続けなければならない。この大いなる逆説を街づくりに活かそう」という言葉でした。私なりに解釈すると、モエケ氏はインターネットに代表される新しいテクノロジーと先住民や伝統的な文化との調和を訴えたかったのではないでしょうか。

<カッコいい広島の秋葉市長>

 日付が変わって8日の朝、広島の秋葉市長がパネリストとして登場しました。シアトルのシェル市長が司会で、イチローのサインボールを秋葉市長に手渡しました。ボストンのギャーグ科学技術局長は「うちにも野茂がいる」と応じていました。秋葉市長はとてもきれいな英語とパワーポイントを自ら操りながら、平和都市・広島をさりげなくPRし、人に優しいテクノロジーの利用を訴えていました。

 具体的には目や耳の不自由な人が第三者を介さずにコンピューターを通じてコミュニケーションできる「テレ・ハート」(広島市が企業と開発を進めているそうです)という装置や、今年中に広島の地方レベルの選挙で電子投票を実現させる計画(家庭のコンピューターから投票するのではなく、投票所に出向いてコンピューターの画面上で投票する)などを紹介していました。

 「毎日市長に市民から何通Eメールが来ますか。市長に市民から直接Eメールが来るようになって何が変わりましたか」と私が質問しました。秋葉市長は、「Eメールは数えられないくらいたくさん来る。変わった事は役人の態度だ。役人が市民ひとりひとりの意見に対して感謝をし、一緒に街づくりをしようという機運が出てきた」というようなことを英語で答えてくれました。

 実は前日の休憩時間の時にもこの秋葉市長と話す機会があったのですが、彼はたったひとりでシアトルに来ていたのです。そのことを尋ねると、「広島市は予算がなくてね」と言っていましたが、あとでこっそり「秘書や部下を海外に連れてくると、タクシーの手配まで自分が面倒を見なきゃならないので、ひとりの方が楽なんです」と本音を話してくれました。ちなみにこの秋葉市長、ボストンにある名門マサチューセッツ工科大学の博士号を持っています。

<全市民に無料Eメール・アカウント>

 次に登場した台北のインヨーマー市長もバリバリでした。年齢は40代後半か50代前半といったところでしょう。台北市では、市が全市民に無料で一生使えるEメール・アカウントを提供しており、現在16万人の市民がこのアカウントを利用しているらしい。さらに台北市民は3時間までは無料でインターネットの講習を受けられるという。これらの市の積極的なインターネット普及政策のおかげで、現在63%の市民がインターネットへのアクセスがあるという。

  インヨーマー市長は、「最近80歳の自分の母親からEメールが来て非常にびっくりした。どうしてEメールなんかできるようになったんだいと母に聞くと、何を言ってるんだい、お前のところの市役所がEメール・アカウントをくれて研修もしてくれることを市長のくせに知らないのかい、と言われてしまった」とユーモラスに語っていました。

<リーダーの資質>

 私が参加したアジア太平洋都市サミットの概要は以上ですが、電子自治体というテーマの他に、ブリスベンのスーリー市長や広島の秋葉市長、台北のインヨーマー市長を見ていてリーダーの資質というものを深く考えさせられたサミットでした。これからのリーダーには、インターネットのような新しいテクノロジーに敏感であり、政策にも積極的に取り入れていくという時代感覚や、このサミットのような国際舞台でも自分の国や街をPRでき、他国からの代表者とも堂々と渉り合える国際感覚が必要不可欠じゃないかとこの三市長を見ていて思いました。

2001年6月11日 慶長寿彰



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