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GLOBAL PERSPECTIVE

ブリスベン市における
地方自治の先進事例と首長の役割




<八戸都市問題研究会主催慶長寿彰講演会(2002/8/18)より>

 慶長寿彰です。こんにちは。今日は講演というような堅苦しい話ではなくて、僕が一年間オーストラリアのブリスベンに行って見てきたことをお知らせしようかなと思っています。一応「ブリスベン市における地方自治の先進事例と首長の役割」という演題を与えられ、これについて話してくれと言われましたが、気軽に思ったことを話したいと思います。

ブリスベン市の概要

 最初にブリスベンという街の概要を大雑把に申し上げたいんですが、オーストラリアの東海岸のちょっと上の方にあってですね、南の方にはシドニーとかメルボルンとか大都市があるんですけれども、ブリスベンは人口が約90万弱、86〜87万人です。オーストラリアの最大の都市はシドニーで、第二の都市がメルボルンで、第三番目の都市がブリスベンなんですけれども、シドニーとメルボルンについては行政区域がいくつにも分割されていますので、ブリスベン市というのはオーストラリアで最大の自治体ということになります。オーストラリアの市町村というのは、大抵は州の付属的な役割を果たしていまして、あんまり行政機能が多くないんですね。だけれどもブリスベンは大きいということもあって、いろんな行政サービスを市が独自でやっています。たとえば公共交通機関の整備ですとか、水道事業ですとか、こういのはオーストラリアでは州がやっている場合が多いんですが、そういったものをブリスベン市はやっていて、ブリスベン市長のジム・スーリーさんはオーストラリアで最も権力のある政治家だと言われています。

 そういうところに行ってきまして、ブリスベンというところは亜熱帯という気候でして、真冬でも日中の最高気温が23度から25度ぐらいになるという、はっきり言って八戸の夏よりブリスベンの冬のほうが暑いというところで、年中泳げる、そういうところでもあります。そして車で1時間ぐらい北へ行くとサンシャイン・コーストというリゾート地がありまして、また、1時間ぐらい南に下るとゴールド・コーストという、これは日本でもハネムーンのメッカと言われていますけれども、そういう観光地に囲まれているという、あるいはそういう素晴らしい気候条件もあって、近年ですね人口がすごく増加していて、オーストラリアの中で一番の人口増加率を誇る街というか都市圏域なんですね。ブリスベンだけで毎年2万人ずつ人口が増えているんです。それの7割ぐらいはほとんどが移民ですね。オーストラリア内外からの移民。オーストラリアの外からも来るし、オーストラリアの中からもそういう温暖な気候を求めて移民がある、そういう街がブリスベンです。

Brisbane City Council(ブリスベン市役所)

 その次に、僕が出向していたブリスベンの市役所なんですが、英語ではBrisbane City Councilと呼ばれているんですね。アメリカなんかではCity Councilというと議会を指すんですが、オーストラリアの地方自治体は議会と行政のスタッフが一体化しているような感じでして、それで市役所全体をCity Councilと呼んでいるんです。まず当然市長、選挙で選ばれる市長がいまして、英語ではブリスベンなどの大都市の市長はLord Mayorと呼ばれているんですが、ただのMayorよりも格が上の感じですけれども、Mayorがいまして、その下にCabinetがあるわけですね。日本の国の制度を考えてもらえばいいんですけれども、たとえば日本だと首相がいてその下に何大臣、何大臣、何大臣と政治家が大臣をやっていますが、ブリスベン市の行政組織はそれに近い感じです。八戸の市役所なんかではそうじゃないですよね。八戸市長がいて助役がいて、その下に部長がいます。議会がありますけれども、議会は行政を監視するみたいな、そういう役割ですよね。ブリスベンの行政機構は、市長がいて、その下にCEO(Chief Executive Officer)と呼ばれている、要するに行政全体の最高責任者がいてですね、日本なんかの助役と比べてもいいかもしれませんが、そのほかにCabinetみたいな形でですね、議会の例えば住民サービス部会の部会長の人(議員)が大臣みたいな役回りをするわけですね。僕なんかの上司の、都市経営局というところに僕はいましたが、そこの局長さんはしょっちゅうその議員さんにですね、説明に行くわけですよね。市議会の与党と役人が一緒になって行政を進めるという感じです。それは国の省庁の次官とか局長が自分の、例えば農水省だったら農水大臣に報告に行くと、それにかなり近い形で、要するに政治のリーダーシップが行政をコントロールしていると言えると思います。

 そしてもうちょっと議会について触れますと、去年もこの場で八戸の市議会議員が多すぎるという話をしましたが、オーストラリアのブリスベンはだいたい86万とか87万人という人口で市議会議員さんが26人です。その26人の議員の中で女性が14人もいます。だから半分以上が女性だということですね。これは市民の半分が女性なんだから、この代議制が市民の人口構成を正しく反映しているという点で、非常にいい議会構成だと僕なんかは思いました。

都市経営局での3つのテーマ

 ブリスベン市役所の都市経営局というところに1年間出向して、主に僕は上下水道とかごみの収集処理とか、そういう住民サービスを担当する部署にいたんですけれども、そこに行く前に、自分なりに3つほどテーマを持って、1年間というのは非常に短いですから、自分でターゲットを絞って、何でもかんでもやってこようということではなくて、3つだけテーマを絞って、これだけは学んでこようと思って行きました。

 一つは環境と調和した街づくりという、英語では「Sustainable Urban Management」というので、ここにSUM(Sustainable Urban Management)と書いてきました。こっちにもう一つ、最後に触れますが、SAMという、これは誰かと離婚した人ではないんですけれども(笑)、安室奈美恵の前夫ではないんですけれども、「Strategic Asset Management」というやつで、日本語にすると「戦略的財産管理」という、これについては後で触れます。 環境と調和した街づくり、ブリスベンは亜熱帯ということもあって非常に動植物の種類が多いですし、また90万近い大都市でもあります。そういう都市の開発あるいは経営を、どのように環境と調和させていくのかというのが一つ。もう一つのテーマが、水道でもごみでもいいんですけれど、そのような住民サービスを提供する上で、どのような事業経営の形態をとっているのか。これは民営化とかそういう話にもなってきますが。それが二つ目のテーマで、三つ目のテーマは、市民と役所の関係ですね、早い話が。そういった三つのテーマについて学んでこようと思って、僕はブリスベンに行ってきた訳なんです。今日はその三つのテーマについて話して、最後に市長さんの役割ということを少し触れたいと思います。

Sustainable Urban Management(持続可能な都市経営)

 さて第一番目、環境と調和した街づくり。オーストラリア、ブリスベンに行って最初にびっくりしたのは、雨水の有効利用というのをどこでもやっているということです。シドニーもそうです。メルボルンもそうでして、ブリスベンもそうでした。そういう大都市が競って雨水の有効利用をしようとしているということですね。トイレを流す水には、飲める水を使う必要がない。雨の水を使ったり、下水の処理水を使ったりですね、そういうふうにしましょうよ。そうすることによって自然界の貴重な水資源から取水する水の量が減らせるんですね。そうすることによってダムを造らなくてもいいし、あるいはそういう取水する河川や湖などの上流域の生態系を保護できる。たぶん日本でもこういうことはいっぱいやっていると思うんです。ヨーロッパでも。ただおそらく日本とかでやっているのは大規模公共建築物でやっているとか、運動場とかの公共施設でやっているとかだと思います。そうじゃなくてオーストラリアでは、家々、各家庭でそういうことをやっているわけですね。

 例えばシドニーなんかの家に行きますと、緑色をした水道と紫色をした水道と二種類の水道があるわけです。緑色をした水道をひねると飲み水が出てきます。紫色をした水道をひねるともう少し水質の落ちる雨水とか下水処理水とかが出てくるわけです。そういった紫色の水道からは飲まないんですけど、庭に散水したり、車を洗ったり、トイレを流したり、洗濯に使ったりとかそういう風にするわけですね。そういうことを各自治体で競い合ってやっていてですね、それに伴ういろんな政策作りに僕はちょっと関わったんですが、例えば紫色の水道の水質基準をどうするのかとか、例えば間違って子どもが紫色の水道から飲んじゃったらどうするんだとか、あるいは緑色の水道と紫色の水道の料金体系をどうすればいいんだとか、雨水タンクの設置のために補助金をいくら出すのかとか、そういうことにいろいろ関わってきました。これから50年後のブリスベン市というのは、各家庭のほとんどの庭には雨水の貯留タンクがあって、屋根はソーラー・パネルで埋めると、そういうことを本気で目指している自治体です。

 もう一つびっくりしたのは、ブリスベンは毎年人口が2万人ずつ増えていると言いましたが、それはどういうことかというと、要するに新しい住宅地をどんどん、どんどん開発していかなければいけないんですね。そのためにかなり自然が残っている土地を開拓したりしなければいけないんです。だけれどもいかにそこで自然にやさしい住宅地開発をするかということで、いろんな自由を制限しているんですね。僕なんかアメリカにずっと住んでいて、こんなことしたらアメリカ人は絶対怒るだろうなというようなことをブリスベンでは政策レベルでディスカッションしているわけです。

 それはどんなことかというと、市民が自分の庭に植える木を行政が制限しようとしているわけですね。それは何故かと言うと、オーストラリアに昔から棲息している土着の植物を植えることによって、オーストラリアは世界で最も乾燥した大陸ですから、水をやらなくても植物が育つんですね。「水をあんまり必要としない植物を植えろ」という訳です。また、そういう植物にはやっぱり土着の生き物が棲息できて、そういう生き物を保護することにも繋がるのです。だけど僕なんかの感覚では、自分の庭なんだから自分の植えたい植物を植えてもいいじゃないかと思うんですが、実際に政策レベルでそういうことをやろうとしているし、事実、住民と協力してやっているところがある。そうすることによって、水の使う量を減らして、さっきも言ったように自然の生態系を守ろうとしているのです。

 もう一つびっくりしたのは、洗濯機とか冷蔵庫とか家電製品ですね。家電製品の種類まで制限しようとしています。いまオーストラリアで盛んに売られているのは、フロント・ローダー型洗濯機というやつです。洗濯機というのは普通は上から洗濯物を入れて水を入れますよね。オーストラリアで今普及しつつあるのは、前から入れる、洗濯機の前面にドアがあって、そこに洗濯物を放り込んで洗うというヤツで、それは非常に水を使う量が少なくて済む洗濯機らしいんですね。そういう洗濯機を新規住宅地開発の住宅とセットで併せるようなインセンティブをつける政策、そういうことをやっています。要するに、公共の利益になるもの、特に環境にいいことは市民の自由を奪ってまでもやろうという発想で行政をやっていました。それがSustainable Urban Management:持続可能な都市経営という分野の一端ですね。

Strategic Asset Management(戦略的財産管理)

 で、次に移りますが、持続可能な都市経営と関連して、Strategic Asset Management(SAM)というやつを少し説明します。これを訳すと「戦略的財産管理」、日本語で言うと訳が分からなくなるんですが、水道施設ですとか都市のインフラですとか、そういったあらゆる市の施設に関する投資計画あるいは維持補修計画、そういった計画を緻密に立てて、向こう50年までのコストを1年ごとにはじき出している行政手法のことなんです。それには結構驚かされました。例えば水道事業なんかでは、50年前に最初に造った市の配水管なんていうのは、50年経って寿命がきたらまた一気に全部取り替えなければならないような事態が起こりますよね。そういうのを避けるために配水管、例えば一本一本の状況を細かくコンピューターにインプットして、ここからここまでの配水管の状況はしばらく大丈夫だとか、あるいはこっち側の配水管はかなり傷んでいるから何年後にはもう替えなきゃいけないよとか、そういのを細かくデータ分析してですね、要するに、ある単年度に財政が極端に圧迫されないような、あるいは政策的な観点から、例えば水質の基準が厳しくなったら水道施設をアップグレードしなきゃいけませんよと、そういうのを全て勘案してですね、50年先まで毎年のコストをはじき出しているわけですね。そういう手法で、戦略的にインフラを管理しているわけです。

 それともう一つインフラだけじゃないんですが、市の施設の、例えばずうっと昔に市が運営していた発電所がもう廃れてきて古くなって使われなくなったと、そうしたらそういうのを美術館に転用するとか、公民館が全然利用されなかったのを図書館に転用するとか、あるいは転用してもだめだったら売却しちゃうとか、そういった用途の見直しも含めて、市の財産、インフラも含めたあらゆる市の施設や財産を非常にうまく管理しているなという印象を受けました。ブリスベン市は、そういうことをやっていました。

サービス事業の経営形態

 二番目のテーマ、サービス事業の経営形態の話に移ります。ここに、NCPと書いてきましたが、これは「National Competition Policy」という英語の略ですが、国家競争法という法律をですね、数年前にオーストラリアの国会が通しまして、住民サービスは全て競争ベースでやってくださいということを決めたんですね。それは民間の参入を促す意図もあるだろうし、行政サービスの効率化でサービス料金や税負担の軽減ということにも繋がるかも知れない。要するに、例えば水道事業でもごみ事業でも、なぜそれを行政がやっているんだというのが、今問われているわけですね。行政がやる正統的な理由はないじゃないかという話で、民間がやって安く効率的にしかもいいサービスを行えるのであれば民間がやってもいいじゃないかという、要するにサービス提供者の競争を促すことによって市民に利益をもたらそうという法律が通ったんですね、数年前にオーストラリアで。それを得て、オーストラリアの各自治体では独自のいろんな手法を取り入れてサービスを行うようになったんです。ここで大事なのは、国が大枠を決めてですね、それをどう運用するかは全部自治体に任せているわけですね。だから例えば水道の例をとると、シドニーではBOT(Build, Operate, and Transfer)といって、民間が水道の浄水施設を建設して、その後30年とか40年とかは、その建てた民間会社が浄水場を管理運営ならびに料金徴収をして、資金回収した後は自治体に施設を返すということをしています。これがシドニーです。メルボルンでは、州が水道の浄水だけを担当して、その下に3つの会社を設けてですね、3つの会社が地区分担をして競いながら配水・給水を行っているんです。そして、水道の料金体系もその3つの会社が競争をして別々にやっている。その他、アデレードでは水道事業を民営化しちゃいました。

   それで、ブリスベンでは何をしたかというと、ここでスーリー市長がリーダーシップを発揮するわけです。水道事業というのは公共の事業だろうと、民間会社がやって、もし何かあって水が飲めなくなったらどうするんだ、水は行政が責任を持たないといけないということで、スーリー市長は民間の参入にひどく反対をしました。しかしながら、国家競争法の制定によって、水道事業をより効率的に運営しなければならなくなったのです。それで彼が考え出したのが、ブリスベン市役所の水道部門を二つに分ける組織形態です。一つは政策的なことと長期計画を担当する、要するに、ビジネス・ベースで儲からない部門。もう一つは本当にサービス提供だけ、水を浄化して水道を供給するというビジネス部門。このビジネス部門については、行政の人間がやりますが、本当に民間の商業ベースでやってもらいましょうということになりました。だから市役所からの財政支援は行きませんよ、水道料金の徴収で事業経営をまかなって下さいということです。そういう風に市役所の水道部門を二つに分けて、要するにペイしない部門ですね、長期戦略と政策決定部門、僕はそこに所属していたんですが、それとビジネス部門というかサービス提供部門というか、このように二つに分けることによってNCPという国家競争法に対処しようとしているのがブリスベンです。

 さっきも言ったんですけれど、ここで強調したいのは、国が大枠を決めて運用は自治体に任せるということです。そうすると、各自治体がいろんなことをバラバラにやっていて、水道事業だけを見ても、シドニーもメルボルンもアデレードも、そして我がブリスベンも全部違うやり方をしているというのが非常に面白いなと思いました。そうすることによって、都市ごとにいろんな経験が蓄積して、自治体間で相互に学びあうことも可能になっているんだと思いました。

市民と行政の関係

 三つ目のテーマ、市民と行政の関係ということ、これに関しては、BCCCCというCが4つの略語を用意してきました。これはBrisbane City Council Call Centerという、要するにコールセンター、市役所の電話番みたいなものを紹介したいと思います。コールセンターという所に、電話の交換手みたいな人をいっぱい雇ってですね、それは雇用にも貢献しているかもしれませんが、そこでですね、市役所に対する市民からの電話を一手に引き受けましょうということなんです。例えば八戸なんかで市役所に電話すると、この案件は都市計画課だとか、この案件は下水道課だとか、この案件は福祉課だとか、でも市民にとっては、分かりにくいですよね。自分はこうしたいんだけど、どこの課に電話すればいいんだ、とか。一度市役所に電話しても、じゃあそれは何課だとか、そこに電話すると、今度は別の課が担当だとか、次々に廻されたりしますよね、たらいまわしみたいに。そういうことをやめて、市役所が担当する、行政が担当する問題の全ての案件は一つの電話番号にかければ分かりますよ、ということをブリスベンでは実行しているんです。それは24時間営業で深夜にかけても人が応答してくれる。そのために電話の交換手をすごくトレーニングして、一人一台コンピューターがあって、市のことは例えば電話がかかってきてコールセンターの交換手が記憶になくても自分で検索してすぐ答えられると、それぐらいのデータベース化あるいはオンラインで全ての部署を結んで全ての情報を引き出せる、それと交換手のトレーニングですね。だから一般市民から要するに地域振興課の大坪さんに電話がかかってきたり、下水道部の山村さんに電話がかかってきたりということはまずないわけですね。そこで、市の職員はほとんど政策的なことを専門的にできるわけですよ。それによって時間がディスターブされることがないわけですから。それと24時間営業で、しかも毎週4,000件ぐらいの照会なり苦情なりがそのコールセンターというところにかけられてきて、その電話交換手たちがほとんど対応しているということです。90%は電話交換手だけで対応できると。中には10%はね、それは専門的なことで担当部局につながなければいけないということもあるんでしょうけれども、それはほんの10%ぐらいだという話です。

 そのほかにITの話もちょっと触れますが、ブリスベン市はホームページもかなり充実していますが、IT化が非常に進んでいて、インターネットを通じて固定資産税が払えるとか水道料金が払えるとか、各種申請ができるとか、そういうのは当然ですね。あるいは競争入札は全てIT化されているとか、そうですね。だから要するにそのコールセンターの精神でもありますように、市民を行政サービスの顧客と位置づけて、お客様を電話でたらいまわししたりとか、そういうことを極力回避するように、24時間体制でいつでもどこでもサービスを要求されたら提供できるような態勢を整えつつあるのが、ブリスベン市役所です。

スーリー市長のリーダーシップ

 僕が設けた三つのテーマについては簡単に触れると大体そういうことなんですが、最後に市長の役割ということでもう少し申し上げます。ブリスベンのジム・スーリーさんという市長さんは今52歳ぐらいですかね。4期目です。4期目で、(1期何年?)1期が3年だったんですが、3年を3期やって4期目から4年になったんですね。そして、もう次は出ないと宣言していますからこれで終わりです。だから40代の初めぐらいから市長になって、50代の初めで市長を終わるという人ですね。

 ジム・スーリーさんという人は、先ほども申し上げました通り、オーストラリアでは最も権力のある政治家と言われていますが、各方面から引く手あまたといいますか、例えば民間のスーパー・マーケットのオーストラリアの大チェーンの最高経営責任者に来てくれとかですね、あるいはこの前に破綻しましたオーストラリアのアンセット航空の経営再建のために来てくれとかですね、あるいはオーストラリアの労働党からは、彼は労働党の所属ですが、次は国政に打って出てくれと、将来は首相にもなってくれと、そういうお声が掛かっていたほどの、「掛かっていた」とここで過去形を使いますが、掛かっていたほどの人でした。しかし僕がオーストラリアを発つ何ヶ月か前に大失言をやらかしまして、今はちょっと下火というか人気が下降線なんです。その失言というのはですね、あるラジオのインタビューで、彼はしょっちゅうマスコミに出ている、毎週のようにクリントンじゃないですけとラジオ・ブリーフィングみたいなことをしていてですね、そのラジオ番組である大失言をしちゃったんです。その失言というのは、消防士さんをちょっと批判したんですね。それは、ブリスベンでは消防署は州政府の役割なんですね。ブリスベン市役所は市ですから、日本で言うと、県と市の対立みたいな感じですね。

 失言の中味ですが、オーストラリアでは消火栓が、アメリカなんか消火栓が歩道にニョキニョキと出ていますが、オーストラリアでは景観を考慮したのかもしれませんが、消火栓がビルに組み込まれてあったり道路の地下に埋め込まれてあったりしているわけです。それで消防士さんたちが特に夜中に火災があったときに消火栓がどこにあるか見にくいと言うんで、消火栓がどこにあるかが分かるように、消火栓の側の道路に反射板をつけてくれとブリスベン市に要請したんですね。要するに州から市に要請がきたんですね。スーリー市長としては、全ての消火栓に反射板をつけるという作業をすると莫大な費用がかかるので、そんなのは州でやってくれと反発したわけです。そこでちょっと州の消防士たちとの関係が気まずくなって、あるラジオ番組で市長さんがポロっと、「あの消防士たちはヌード・カレンダーなんかに出やがって」ということを口走ったんです。しかも、「火事がないときは、消防士たちは勤務時間中もトランプやったり、ヌード・カレンダーでいい格好をするためにジム通いをしている、勤務時間中に」とまで言ってしまったんです。そうしたら消防士だけじゃなくて市民からも大反発がきて、実際その消防士さんたちはヌード・カレンダーに出ていたりするわけなんですが、オーストラリアではサッカー・チームがヌード・カレンダーを撮ったりとか、そういうことは良くあるんですが、そういうことを市長さんが口走ったばっかりに、もう国政に出てくれという声とかなくなっちゃったんです。だから僕は、将来あの市長さんがオーストラリアの首相になったらまた会いに行こうかなとか、僕がブリスベンをやめるときにサイン入りの写真集とかもらったんで、これがちょっと価値が上がるかなとかいろいろ思っていたんですが(笑)、その失言でスーリー市長が将来オーストラリアの首相になるという目はなくなったかもしれないなと、少しがっかりしています。

 その市長さんはすごく国際派の人でして、国際的なことがすごく好きな市長さんなんです。そういうこともあって全世界の自治体で初めて世界銀行と人事交流を締結して、それで僕が行くことになったんですけれども。その他にもいろんな国際的な施策をやっているんですよ。

 一つはですね、ブリスベンで毎年8月か9月にやるリバー・フェスティバルという川を題材にしたお祭りです、一週間やるんですが。ブリスベンという街はですね、中心部に非常に大きな川が蛇行したまま自然の形、昔ながらの蛇行した形で街中を貫いていまして、川が市民の最も大事な財産なんです。まあ、そういうこともあって、いろんな自然とか環境とかいうのに力を入れているんですけれども。そこで、川のほとりを走るリバー・ランだとか、川辺のコンサート・ホールでジャズ・フェスティバルをやるとかですね、あるいは世界から川の専門家を集めてきてリバー・シンポジウムをやるとか、そういった川を題材にしたいろんなあらゆるイベントを一週間ぶっ通してやるという、国際リバー・フェスティバルというのをブリスベンで毎年やっているんですが、もう今年で4回目か5回目になるんですが、そういうのをやった関係で世界各国の川の専門家とか水質の専門家とか、そういう人たちがブリスベンに毎年来るわけですね。しかも、世界中のいろんな川のある街にブリスベンの市長さんが呼ばれていくわけですね。そういうことによってブリスベンを国際的あるいは世界的な都市にしようと、今はほとんどもうそうなりつつありますが、そういうことをスーリーさんがブリスベンの市長に9年か10年前になって以来ずうっとやってきて、今ではもうブリスベンというのは世界的にもかなり知名度の上がった都市になりました。そういったことを市長さんがリーダーシップを持って、内外に向けて「ブリスベン」、「ブリスベン」と宣伝して、ブリスベンの顔としてですね、世界中のいろんなところに出かけていってやっているわけです。

 そしてもう一つはAsia Pacific Cities Summit(アジア太平洋都市サミット)というのを、去年シアトルで開催されましたが、それは東奥日報の記事にも書きましたけど、これも本当にジム・スーリーさんという市長さんの一声で決まってですね、ブリスベンが事務局を持って、4年に一度ブリスベンに戻ってくるという国際会議です。単発のイベントではなくて、そういう継続のイベントで、世界からお客さんを定期的に呼んできましょうと、そういうことをやっている市長さんです。

 さっきもサイン入りの写真集をもらったといいましたが、やっぱりあの人は本当に話を聞いていてもすごーく面白くて、僕もブリスベンを発つ数日前に市長さんと30分ぐらい面談する機会を得ましたが、その時に、僕は「トシ」と呼ばれていましたが、「トシ、世界銀行で出世したいか?」と聞かれて、「もしお望みであれば僕が世界銀行のウォルフェンソン総裁に手紙を書いてあげるよ。」と言ってくれました。僕は「是非お願いします」と頼んでおきました。すると、ワシントンに戻ってきて2週間ぐらいしたらブリスベンからファックスがきたんですよ。それは、本当にスーリー市長から世銀総裁への手紙でした。ブリスベンのジム・スーリー市長から世界銀行のウォルフェンソン総裁に宛てて、「この慶長何某は一年間ブリスベンで大活躍をして、非常にブリスベンの街づくりに貢献してくれたので、是非ともこいつを出世させてくれ。」と。しかも、「このブリスベンと世界銀行の人事交流は非常に素晴らしいので今後もやりましょう」ということが書かれてありました。こういうことを、本当にやる人なんです。これでますます僕はこの市長が好きになって、やっぱり消防士はヌード・カレンダーなんかに出るべきじゃないですよねっていう、そういう話で盛り上がったんですけれども。

 最後に非常に大事な市長の発言ということで、東奥日報にも書いたんですが、スーリー市長の言葉の中で僕が好きな言葉を紹介します。「市のビジョンと、そのビジョンを達成する政策なり行動計画、それと最後にその政策を実現する予算措置、この3つですね、大事なのは。ビジョンと政策と予算措置、この3つが全てつながって初めて街づくりができるんだと、そこに市長が責任を持たなければいけないんだ」ということです。これは、日本全国の、あるいは全世界の市長さんに聞かせてやりたい言葉だなあと僕は思っています。

ヌード・カレンダーではなくCM出演

 だいたい僕の話はこんな感じです。この後、ブリスベンのビデオ上映がありますが、質問やら感想があれば、飲んでいる最中でもビデオを見ている最中でも言ってください。本当にブリスベンという街はいい街で、あそこに1年間、1年間は短かったんですが、本当は2年間行きたかったんですが、家族をワシントンに残して単身赴任ということで、まあ僕も妥協して1年ということで行ってきました。本当に1年間いい思いをさせていただきまして、おいしいものも食べたし、いい気候でした。

(ヌード・カレンダーには出なかったの?)

 ヌード・カレンダーには出なかったんですけど、コマーシャルには出たんですよ。ブリスベンというところはですね、温暖な気候ということもあって、いろんな世界各国からコマーシャル撮影に来るんですね。日本からもいっぱいコマーシャル撮影がきて、巨人の松井選手とブリスベンの空港でばったり会ってですね、ブリスベンで巨人の松井がオロナミンCのコマーシャル撮影をしたということだったんですが。

 ひょんなきっかけから僕が出たコマーシャルというのは、香港に拠点を置くキャセイ・パシフィック航空という航空会社のコマーシャルで、香港からキャセイ・パシフィック航空で飛んで東京に行った中国人が東京の企業とビジネス取引をするというシーンをブリスベンで撮ったんですね。ブリスベンに日本人のビジネスマンはいないか、ということで借り出されたわけですね。僕は副社長かなんかの役回りで、取締役会の会議室に座っている、せりふはなかったんですが、そういう役でした。残念ながらこのキャセイ・パシフィックのコマーシャルは香港だけでしか放送していないそうなので、まだ見ていません。香港に友達がいる人は、ぜひ一声かけてあげてください。

 そういうことで本当にブリスベンはいいところでした。これから、ブリスベンのビデオ上映があるそうなので、皆さんそちらも楽しんでください。そして是非実際に一度行ってみてください。(講演おわり)



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