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GLOBAL PERSPECTIVE

IWA世界会議 in メルボルン
〜水道事業・国際リーダーズ・サミットに参加して〜




<「水道公論」2002年7月号より>

1.はじめに

 私は、4月8日、9日と2日間に渡り豪州メルボルンで行われた「第2回IWA国際水道事業経営者リーダーズ・サミット」に参加する機会に恵まれた。このサミットは、新生IWAの目玉事業のひとつで、全世界の水道事業経営者や経営幹部が一堂に集まるという数少ない機会である。水道事業体が抱えている様々な問題に関する情報交換の場を提供するばかりでなく、国際機関や各国政府の政策決定者に対して実践者の立場に基づいた提言を行うことも期待されている。私は水道事業の経営者でも幹部でもないが、今回のサミットの主要テーマであった「水道事業の経営形態と規制」に関するIWAの草稿にコメントを送ったことから、IWAのポール・ライター専務理事よりオブザーバー参加を要請された。本稿は、サミットの内容報告と参加の感想を述べたものである。

2.参加者の顔ぶれ

 メルボルンの第2回サミットには、私を含めた3人のオブザーバーを除くと、15カ国から39人が参加した。国別参加者の内訳は、地元の豪州からの9人が最も多く、次いで日本から7人、フランスから5人、アメリカから4人、マレーシアとモロッコから2人ずつ、ザンビア、ニュージーランド、スウェーデン、香港、ポルトガル、スイス、イギリス、南アフリカ、ドイツからが各1人であった。参加者の顔ぶれは実に様々で、フランスの民間水道企業である「ヴィヴェンディ」や「スエズ」のCEO(最高経営責任者)や幹部、自治体の水道担当トップや、各国の水道協会の代表者などであった。日本からは、東京都、横浜市、名古屋市、大阪市など主に大都市の自治体から、水道担当幹部が参加していた。

3.サミットの概要

 今回のサミットでは、あらかじめ3つの主要テーマが決められていた。それらは、「水道事業の経営形態と規制」、「持続可能な水道事業経営」、そして「発展途上国の水問題」である。それぞれのテーマごとに、簡単にサミットを振り返ってみたい。

<公共か民間か>

 最初のテーマは、水道事業の経営形態と規制であった。公営企業形式や民営化など、世界には実に様々な水道事業の経営形態がある。その経営形態に応じて規制のあり方も変わってくる。IWAは、「どのような経営形態をとるかは、個々の都市や地域の政治的、文化的、社会的要因に任せるべき」としながらも、「それぞれの経営形態がよりよく機能するためには、どのような条件が求められるのか」というテーマで情報収集を進めている。今回のサミットでは、まずIWAのワーキング・グループによる検討結果が発表された。

 IWAのワーキング・グループは、公共側の関与が強い順に、自治体モデル、公営企業モデル、コンセッション・モデル、完全民営化モデルという4つの経営形態について考察を行った。コンセッション・モデルとは、水道に関する財産は公共側が所有したままで、サービス提供は民間に長期委託するというものである。いずれのモデルも、健康面ならびに環境面の規制と、一定の法による統治は必要としながらも、公共の関与が強いほど、コミュニティによる統治が必要で、民間の関与が強いほど、水道料金とサービス水準に関する規制が必要だと結論づけた。コミュニティによる統治とは、要するに、市民がサービス水準や料金体系、その他の水道に関する政策をきちんと監視するということである。逆に言えば、市民が監視できないようであれば、公共側が事業を行うのは望ましくないし、水道料金とサービス水準に関する有効な規制とその規制を監督するしっかりした組織がないならば、民営化は危険だということである。

 私は、「途上国においては、コミュニティによる監視も規制能力も両方とも弱い。そのような所では、どのような経営形態をとるべきなのか」と問題提起をした。そのうえで、以前担当していたバングラデシュ・ダッカ市の水道事業において、民間業者と水道公社の競争によりパフォーマンスが向上した例を紹介した。要するに、自治体モデルや公営企業モデルでも、やり方次第で競争の導入は可能である。そういった様々なバリエーションを考えると、IWAが示した4つの経営形態は、多少簡素化し過ぎのような気がした。

<持続可能な水道事業>

 二つ目のテーマは、水道事業の持続可能性(Sustainability)であった。持続可能性とは、一般には、「次世代に負の遺産を引き継がない」という意味であるが、水道事業に関しては主に次の三種類が重要である。

(1)環境的持続可能性(Environmental Sustainability)--- 水道事業による水資源などの環境破壊の抑制
(2)財政的持続可能性(Financial Sustainability)--- 適切な事業コストの回収による健全な財政運営
(3)組織的持続可能性(Institutional Sustainability)--- 水道事業を運営する組織の継続的能力強化

 今回のサミットでは、上記(1)の環境面に関するケース・スタディが三つの都市から報告された。ストックホルムの尿と糞を分ける汚水処理の方法や、シドニーの下水処理水再利用など、いずれも興味深い内容であった。紙面の都合で、シアトルのケースのみ以下に少し詳しく述べてみたい。

<鮭も顧客>

 シアトル市のあるワシントン州では、鮭が地域のシンボルとなっている。その鮭が、川に遡上して来なくなった。河川の水量の低下と、水質の悪化が最大の理由だと思われた。要するに、上流から大量の取水をし、下流に下水処理水を放流するという、流域都市の水道事業が犯人である。アメリカ環境保護庁(EPA)は、鮭を守るために、その川にいかなる悪影響を与えている個人、事業体に対し罰金を科すことを決めた。川の流域には27の水道事業体があり、それまでは全くバラバラに水道事業を運営していたという。EPAの罰金政策を受けて、初めて流域の水道事業体が危機感を持ち、環境への責任を自覚し、同時に流域の水道事業の連携を強化した。取水量を減らし、より効率的に水を使うようになった。「今までは、水道事業の顧客といえば、水を使う人間だけであった。しかし、これからは鮭も顧客である。しかも重要な顧客である」という言葉が印象的であった。シアトル周辺の川では、鮭が戻りつつあるという。このシアトルの事例は、水道事業と環境を考える上で、とてもいいケース・スタディであった。

<途上国の水問題>

 最後のテーマは途上国の水問題であった。しかしながら、十分な時間がなかったこともあり、途上国が抱えている水問題の概略が示されただけで、IWAやこのサミットが、いかに途上国の水問題解決に関わっていくのかという具体的な議論はほとんどなされなかった。国連の新千年紀の開発目標(Millennium Development Goals)では、「2015年までに、途上国できれいな飲み水が恒常的に手に入らない人口を半分にする」としている。これを達成するだけでも、我々の前には相当困難な仕事が待ち受けているのだ。マレーシアからの参加者は、「途上国の問題を、途上国からの参加者がほとんどいないこのような会議で議論するのは不適当だ」と述べた。実は、私自身も同じようなことを感じていた。

4.サミットの改善点

 サミット全体を通じて私が感じたのは、「国際水道事業経営者リーダーズ・サミット」と銘打っている割には、国際色が少ないなあというものだった。より正確に言えば、国際色はあったがかなり片寄っていた。それは、参加者の出身国についてばかりではなく、プレゼンテーションや取り扱うケース・スタディについても言えることであった。準備されていた全てのプレゼンテーションやケース・スタディは、欧米か開催国である豪州のものだったのだ。後にIWAの担当者と雑談する機会があったが、彼らもこのことは今後の課題として十分認識していた。IWAはこのサミットを目玉事業のひとつとして、今後とも継続的に開催する意向である。だとすれば、成功の鍵は、いかに多様な地域からの参加者を増やすかにかかっている。特に、途上国からの参加者には旅費の工面など何らかの補助を考える必要があるかもしれない。今回のサミットのような情報交換の場は、途上国からの参加者にとって研修効果も期待できるので、今後、IWAは世界銀行などの援助機関との連携も模索するべきかもしれない。

5.日本も積極参加を

 日本からは、開催国オーストラリアに次いで7人という数の参加者があったが、2日間のサミットで日本からの参加者が自発的に発言したのは、私の記憶する限り、ほとんどなかった。サミットの総合司会であるIWAのライター専務理事が、気を利かせて何度か日本人に発言を促すほどであった。日本からの参加者には、日本水道協会がアレンジした同時通訳が付いた。英語の不得手さはいたしかたないが、英語を母国語としない同じアジアのマレーシからの参加者が何度も積極的に発言していたのとは好対照であった。しかし問題は、英語力だけではないのではないか。日本の水道事業体は、自治体や公営企業による事業運営がほとんどで、今回のサミットに他国から参加したような経営のプロやリーダーが少ないのではないか。あるいは、技術者が優位を占め、今回のサミットのテーマであった経営形態や持続可能性といった問題に対処できていないのではないか。要するに、「水道事業においても、やはり日本は国際競争力がないのか」と、私は少し歯がゆい思いだった。私のこういった危惧が杞憂にすぎず、この秋にイタリアのヴェニスで行われる予定の第3回サミットでは、日本からの積極的な情報発信が行われることを願っている。

世界銀行勤務 慶長寿彰



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