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GLOBAL PERSPECTIVE

トロントに学ぶ市町村合併(上)
〜人口240万の大都市誕生〜




<自治のすがた〜海外事情(東奥日報2001年4月1日)より>

 1997年夏、あるセミナーに参加するために訪れたカナダのトロントで、トロント市議会の女性議員と同席する機会があった。話題はもっぱら98年1月に迫っていたトロント市とその周辺を取り巻く5市、さらにはトロント大都市圏政府まで巻き込んだ7つの行政体の合併の件であった。彼女は合併を決めたオンタリオ州政府の強引なやり方は到底納得できないと言い、大いに不満の様子だった。それもそのはず、合併に伴う市議会議員の大幅削減は彼女ばかりでなく、関係6市の地方政治家にとって死活問題であったはずだ。

 そのセミナー以来、トロントの市町村合併の動向には興味を持って注目してきた。合併の実施以来3年という過渡期を経て、そろそろこの合併を振り返り、さまざまな教訓を学ぶには絶好の時期である。

多かった合併反対票

 事の発端は96年秋、オンタリオ州政府が州都トロントの国際競争力のさらなる向上と効率的な行政運営を目指して、この合併計画を打ち出したことに始まる。カナダでは、州政府が州内の自治体を整理・統合する権力を憲法により与えられている。この州政府の発表は、関係6市の全市長、多くの市議会議員、市職員ばかりでなく、地域のアイデンティティーの喪失と市民の声を地域行政に反映しづらくなることを危惧する多くの有権者の反対を引き起こした。合併の是非を問うた97年3月の住民投票では、投票率は30%前後と低かったものの、投票者の76%が合併への反対票を投じた。しかしこの住民投票は拘束力を持たないものであったため、州議会は半ば強引に同年4月21日この合併を決定した。これにより、人口約70万人の旧トロント市を筆頭に最少で10万人の全6市が合併し、北米第5位の人口約240万人を抱える新トロント市が誕生することになった。

 同年11月に行われた新市長選挙では、圧倒的に有利なはずの旧トロント市の現職ホール市長が隣接する北ヨーク市のラストマン市長に敗れた。こうして98年1月1日、正式決定からわずか9ヵ月足らずでトロント市は新体制に移行することになった。

3年で職員1割減

 この合併の前後で市長は6人から1人、市議会議員は100人から57人(2000年11月からはさらに減って44人)、自治体部局は52局が6局へ、206課が37課へとそれぞれ削減された。自治体職員数は合併から3年で合併前の約1割に相当する2千人ほどが減り、そのうち管理職は労働組合に属していないという事実も手伝ってか3割以上(1837人から1204人)が職を去るという人員削減の標的になった。合併に伴う経費削減効果は試算によりいろいろな数字が挙げられているが、大体1億から1億4千万カナダ・ドルといったところである。解雇職員への退職金やさまざまな新しいシステムの導入、オフィスの移転といった合併にかかったコストは約2億5千万カナダ・ドルといわれており、本当の意味での経費削減効果を試算するにはこれを差し引く必要がある。

 以上がトロント合併の経緯と概要であるが、次回はこの合併から学ぶべき教訓を日本の市町村合併の参考になるいくつかの点を中心に述べてみたい。

慶長寿彰(八戸市出身、世界銀行本部勤務)

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