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GLOBAL PERSPECTIVE

トロントに学ぶ市町村合併(下)
〜生活圏基準に行政再編〜




<自治のすがた〜海外事情(東奥日報2001年4月2日)より>

 前回述べたトロントとその周辺5市の合併の最大の特徴は、何といってもオンタリオ州政府の強引ともいうべき主導権の発揮である。新体制への移行計画の作成や、新トロント市の主要ポストへの人員採用なども、州の任命した移行チームが担当した。確かに合併対象となる自治体の首長や議員が合併後のさまざまな事項を議論するのは利益相反であり、適当でないという意見もある。彼らにまかせていたのでは、今回のような合併は遅々として進まないというのは容易に想像できる。しかし、計画発表から約半年で議決、その後9カ月で新体制への移行という性急さは少なからぬ混乱を引き起こした。

合意形成が不十分

 あれだけの関心を集めながら30%の低投票率という住民投票に対する私なりの解釈は、大部分の一般市民が合併の効果とは何なのか、合併により自分たちの生活はどう変わるのかということを理解できずにいたというものである。オンタリオ州政府の主導権は歓迎するが、おそらく州政府はもっと時間をかけて合意形成に努めるべきであった。例えば合併の効用と市民生活への影響を、客観的なシミュレーションなどを用いて6市の住民に説明するべきではなかったか。

 トロント合併におけるもうひとつの重要な教訓は、激変緩和措置の導入である。当初の予定では市議会議員は合併前の100人から44人に削減されるはずであったが、最終的にはまず57人に減らし、3年後の2000年11月から44人になるという二段階削減方式となった。

 また、旧自治体の住民の声が新トロント市議会に反映されづらくなるのではないかという懸念を払しょくするために、旧6市のそれぞれの選挙区から選出される市議会議員からなる6つのコミュニティー議会を新設し、これにより新市議会は新市域全般に関する政策決定を担当し、コミュニティー議会は旧6市の行政区域の案件を担当するというすみ分けが行われた。ただし2000年11月からは、この6つのコミュニティー議会の担当区域は旧6市の行政区域とは関係なく、人口などを考慮して再編成された。このような議員の段階的削減やコミュニティー議会の設置は、日本の市町村合併の際に大いに参考になる。

定量化できない効果

 私が思うに市町村合併とは、行政区域を日常生活圏に近づける作業である。同じ生活圏であるにもかかわらず、受けられるサービスが違ったり、税負担が違ったりという不公平感の是正でもある。さらに言えば、生活圏一体となった街づくりが生み出す定量化できない波及効果や都市競争力の向上は、単に議員や職員数の減少、規模の経済による効率的な行政運営といった経費削減効果をしのぐのではないか。生活圏を基準にすると、県域をまたぐ市町村合併なども検討に値するかもしれない。トロントの例が示すように、合併はよりよい行政機能構築の絶好の機会である。日本の自治体も合併を機に、公募採用や年功序列から能力主義への転換、あるいは業績評価制度の導入などを検討すべきである。最後に付け加えると、最近の調査では新トロント市民の約7割が合併は成功だったと思っているそうだ。

慶長寿彰(八戸市出身、世界銀行本部勤務)

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