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GLOBAL PERSPECTIVE

バングラデシュでの実験
〜競争原理導入が奏効〜




<自治のすがた〜海外事情(東奥日報2001年4月6日)より>

 前回は世銀が融資をする際の審査について書いたが、今回は実際の世銀融資案件について、私が担当しているバングラデシュの都市開発プロジェクトを例に述べてみたい。バングラデシュは南アジアの最貧国で、他の多くの途上国と同じように中央政府が強大な権限を握っている半面、地方自治体の行政能力が極めて乏しい。一方、都市の人口爆発に伴う急激な居住環境の悪化と、水道供給やごみの収集・処理といった住民サービスの量的質的不足を解決するためには、都市自治体の育成と強化が課題である。地方分権を進めながら、いかにして自治体の能力を向上させ、しかも自主財源を確保させるかに頭を悩ませた。私のチームの処方は次のようなものであった。

強化目標を設定

 まず、プロジェクトの対象となるバングラデシュ西部の16の地方自治体に対して、財政力や人事面の詳細な調査を実施する。その調査に基づき、主な自主財源である固定資産税や水道料金の徴収率向上目標、必要な人員強化目標を各自治体と合意のもとに個々に設定する。次にその目標達成のためのトレーニングや専門家の派遣を約2年間実施する。さらにはその目標を達成した自治体にのみ、世銀が設ける都市開発基金からの都市インフラに対する融資を可能にするというものだ。これは、アメとムチにより各自治体の財政力や行政能力の向上に対する誘因を与えると同時に、自治体間で競わせることにより目標達成の確率を増やそうという意図が背景にある。言ってみれば地方自治の実験である。

 地方分権はしてみたが、自治体の財源と行政能力が追いつかずに失敗した例は世界中に数多くある。日本もそうであるが、伝統的に中央集権が強い国ではもっと分権のプロセスに注意を払うべきで、バングラデシュでの実験のような誘因と競争原理の導入も一つの手段といえよう。このプロジェクトはまさにスタートしたところで、数年後には貴重な教訓が学べそうだ。

公社と民間が競う

 別のプロジェクトの例では、首都ダッカ市の水道料金請求の正確さと徴収率の向上を目指して、ダッカ市水道公社と民間業者との競争を行ったことがある。市内をいくつかの地区に分け、公社と民間業者が水道メーターの読み取り、請求書の作成と料金徴収を別の地区で担当した。結果は民間業者、公社の担当地区とも、全地区を公社が担当していた競争導入前に比べて料金徴収率、徴収額が増加した。競争は有効だった。

 しかし当初の予想に反して、公社側の増加率の方が民間業者のそれを上回った。このような都市を区分けしての住民サービスの複数の民間業者への委託、あるいは行政と民間との競争は、ごみ収集などの分野で先進国でもよく見られる。非効率なサービス提供につながりがちな行政による独占から、競争により効率化とサービスの質の向上を図ることが主な目的である。今後の自治体の役割はサービス提供者としてよりも、サービス提供のルールづくりと、民間によるサービス提供の監視へと移行していくのではないか。いわばアンパイアの役目である。自治体や公共側が選手を務めるのは、ダッカ市水道公社のように少なくとも民間との競争で生き残ったものだけが認められる時代になりつつある。

慶長寿彰(八戸市出身、世界銀行本部勤務)



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