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第3章 きらめくジャワ海




3.きらめくジャワ海

 神々の島、地上最後の楽園など様々な形容詞で語られるバリ島は、インドネシア随一の有名ブランドである。インドネシアの大統領の名前は知らなくても、インドネシアの首都を知らなくても、バリ島という名を知っている日本人は多い。「バリ島ってインドネシアにあるの?」と言う平和なお嬢様もいるくらいである。バリ島はそれ自体がひとつの独立国であるかのように、少なくとも知名度の点ではインドネシアから突出している。バリ島を一度訪れると病みつきになるという話をよく耳にするが、私もあれほど観光客(日本人とオーストラリア人ばかり)が多くなければそうなっていたかもしれない。そこにはゆったりとした南の時間が流れている。起きたい時に起き、食べたい時に食べ、寝たい時に寝る。あとはビーチでトップレスのオージー・ギャルが胸騒ぎの腰つきでモンロー・ウォークしているのを眺めていさえすればいい。皮膚ガンの心配などこれっぽっちもせずに、オゾン層の破壊により地表に届く有害な紫外線のシャワーを浴び続けることで、楽園を肌で感じることができる。バリ島にはポカーンとした生活が似合う。

 バリ島には、ヤシの木より高い建物を建ててはいけないという規則がある。以前サヌール・ビーチに近代的な高層ホテルが建てられた時に、島の人々に大変な不評でこのように決められたのだという。だから、バリ島のホテルはコテージ・タイプのものがほとんどである。高さの基準をヤシの木にしたところが、いかにもバリ島らしくて嬉しい。ヤシの木にもいろいろな高さのものがあると思うのだが、そんな余計な心配をするのは、何メートルまでという正確な数字を決めなければ納得しない小心で几帳面な日本人の悲しい性(さが)である。

 まだ知名度ではバリ島にかなわないが、数年前からプロウスリブ(ジャワ海に浮かぶ小さな島々)が高級マリン・リゾート地として台頭してきた。ここは、JALが開発した珊瑚礁の島々で、あらゆるマリン・スポーツ、ディスコなどのレクリエーション施設から、ホテルのサービスに至るまで何もかもが超一流である。当然値段も相当に高い。従ってインドネシアにありながら、インドネシア人は訪れることができない。これではインドネシア人に対して礼を失していないだろうか。私が訪れた時も十数人の観光客が島に宿泊していたが、私の友人を除けば他は全て日本人であり、異常としか言いようがなかった。「日本はかつて武力に物を言わせて我が国に攻めてきたが、今や経済力で攻めてきている」と言ったあるインドネシア人牧師の言葉が思い出された。私はこの何とも複雑な気分を払拭すべくインドネシア人になりすまし、他の日本人の観光客には片言の日本語と精一杯のインドネシア語で対応し、ホテルの現地スタッフ達に大いに受けまくった。インドネシア人観光客の振りをすることで、現地の人々が享受することのできないリゾートとは何なのかという疑問を訴えたかったのである。後に私はJALの島よりかなり格下の島(プロウビダダリ)も訪れたが、ここのコテージにはエアコンもなく、シャワーはお湯が出ず、レクリエーション施設と言えるのは古ぼけた卓球台だけであった。当然の結果として日本人は私一人であり、他の客はインドネシア人の家族連れであったが、どういうわけか私はこの島の方が居心地がよく、ビダダリ(女神の意)という名前のせいもあって忘れ難い地のひとつとなってしまった。

 ともあれ、バリ島にしてもプロウスリブにしても、海の美しさは文句のつけようがない。アクアマリン、エメラルドブルー、いや、あの海の色を表現するボキャブラリーを私は持ち得ない。南海の酋長ツイアビは、物には二つの種類があると言った。現在の物質文明を支えている人間が作り出した「物」と、海や空、花やヤシの木などの神が造り出した「物」とである。プロウスリブで見たジャワ海のきらめきは、正に彼が言うところの「神が造った物」であり、その前では人の作ったいかなる「物」でさえ色あせてしまう。あの美しい自然は、永遠に続くのであろうか。観光客目当てのリゾート開発が、遅かれ早かれその自然に(時には現地の文化にまで)影響を与えるとしたら、観光客である我々がそれに加担しているとは言えないであろうか。今や、お金を払って航空券を買えばどこへでも行ける時代である。リゾートという名のもとに、自然が開発され、観光地となり、人間が出かけて行く。しかし我々人間が行くことによって様々な弊害が引き起こされるとしたら、極論ではあるが、そこへは人間は行かない方がいいということになってしまう。そうならないためにも、観光地開発のあり方は、人間優先、営利目的のものから、自然に親しみ、自然と共存できる持続可能型へと見直されるべきであろう。インドネシアで自然の美しさに触れる度に、自然と人間の関わり方を深く考えざるを得ない。(第3章終わり)

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