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  ブータン(March 2003)



ドラゴンに乗ってブータンへ (2003/03/05)


 バンコックに着きました。ワシントン〜成田が14時間、成田空港で数時間の待ち合わせ後、成田〜バンコックが7時間ということで、ほぼ丸一日飛行機に座っていたことになります。さすがに疲れました。疲れを癒す間もなく、あと3時間ほどでまたバンコックの空港に戻らなければなりません。いよいよ水曜日の早朝、バンコックからブータン国営の「ドゥルック航空」で地上最後の楽園と呼ばれるヒマラヤ東部の秘境ブータンに入ります。ちなみに「ドゥルック」とは、ブータンの言葉で「ドラゴン(龍)」という意味だそうです。

 ブータンに飛んでいる飛行機は、この「ドゥルック航空」しかありません。この「ドゥルック航空」は機体を二機持っているだけで、インドのデリーとカルカッタ、バングラデシュのダッカ、ネパールのカトマンズ、ミャンマーのヤンゴンなど周辺国の主要都市と、タイのバンコックに就航しているだけです。僕が乗るバンコックからの便は、途中ヤンゴンとダッカを経由して、5時間半ほどかかってブータンで唯一の空港があるパロという町に到着します。「ドゥルック航空」は、国際的な予約システムに組み込まれていないため、チケットを手配するのも一苦労でした。結局、ワシントンの旅行代理店ではチケットの予約ができず、クライアントであるブータン政府に予約をお願いすることになりました。

 ブータンは長らく鎖国状態にあったり、1999年までテレビが禁止されていたりと、独自の文化を守るためにユニークな政策を実行してきた国です。そういう国がグローバリゼーションとIT化の影響をどう受けているのか、仕事以外でもいろいろ見てこれたらと思っています。まあそんな余裕はないかもしれませんが。インターネットも使えるかどうか、行ってみないと分かりません。少なくとも、僕が使っているAOLのアクセス・ポイントはないようです。



ブータンの首都ティンプーより (2003/03/07)


 水曜日のお昼頃ブータンのパロ空港に着きました。バンコックからパロへのフライトは、途中ミャンマーのヤンゴンとバングラデシュのダッカに寄る予定でしたが、この日はヤンゴンで降りる人もヤンゴンから乗る人もいないということで、ヤンゴンには寄らずダッカを経由しただけでした。ミャンマーには行ったことがないので、空港だけでもどんなところか見てみたいと思っていたのに残念です。まあ、この点は帰りに期待します。このパロへのフライト中、ブータンが近づくにつれて、雪に覆われたヒマラヤの山々が機内から一望でき壮観でした。左手には、エベレストの尖がった山頂がくっきりと見えました。そしてヒマラヤ山脈の中に突然見えてきた盆地が、ブータンで唯一空港のあるパロという町でした。

 そのパロから曲がりくねった山道を車で一時間半くらい走ったところに、首都のティンプーがあります。今はそのティンプーに滞在しています。ブータンは、ようやく長い冬が終わり早春を迎えています。子供達の3ヶ月という長い冬休みも今週で終わり、来週から新学期が始まるそうです。標高が約2300メートルというティンプーは、春とは言っても朝晩は摂氏0℃くらいまで冷え込みます。ホテルには小さなヒーターしかないので、結構寒いですよ。それでも太陽に近いせいか、日中は陽射しが強く感じられ、気温も10℃〜15℃くらいまで上がります。さてイントロはこれくらいにして、次回からブータン見聞録の始まりです。



ブータンの厳しいドレス・コード (2003/03/08)


 ブータンの人々は日本人みたいな顔をしている人が多いので、とても親しみが湧きます。ブータンの男性が着ている「ゴ」という民族衣装も、日本の着物か丹前に似ています。ただ、この「ゴ」は膝までの長さしかなく、男性はみんな膝まで隠れるハイソックスをはいています。女性の民族衣装は「キラ」と呼ばれ、こちらは足首まで隠れる巻きスカートのような物です。男性も女性も必ず袖口を折り返していて、衣装の色とは異なる袖の裏地がワンポイントになっています。男性の「ゴー」では、この袖の折り返しは必ず白でなくてはならず、また、折り返しの長さは階級によって異なるんだそうです。「ゴ」も「キラ」も様々な色や模様があり、とても綺麗です。ブータン人はお洒落ですね。

 ブータンでは、外出時にはこの民族衣装の着用が義務付けられているといいます。本当かどうかは分かりませんが、公の場で民族衣装を着ていないと逮捕されるということも聞きました。仕事で訪れる政府関係の建物の入り口には、「民族衣装を着ていない者は立ち入り禁止」という張り紙もありました。独自の文化や小国のアイデンティティを守るために、ドレス・コードが厳しいのかもしれません。僕のような外国人は例外ですが、それでも政府関係の建物に入る際はネクタイの着用を勧められました。

ブータンの民族衣装「ゴ」  早春の首都ティンプーも、まだ朝晩はかなり冷え込むので、街を行くブータン人はとても寒そうに見えます。この民族衣装着用義務のためか、コートやジャンパーを着ている人は皆無で、みんな首をすくめ、両手を袖口に入れて寄り添うように歩いています。寒さをしのぐには、「ゴ」や「キラ」の下に重ね着をするしかないようです。特に男性は膝から下はハイソックスだけなので、寒そうです。コートを着たり、ズボンを穿いたらもっと温かいだろうなあと思いますが、そこは寒さしのぎより、国のプライドやアイデンティティといったものが優先しているようです。もう少し暖かい時期に再びブータンに来れたら、僕もブータンの「ゴ」を着て街を歩いてみようと思います。日本人の僕が「ゴ」を着たら、きっとブータン人に間違われるでしょうね。



ブータンで赤飯とヤクを食べる。 (2003/03/09)


ブータンのヤク  今日は首都のティンプーから車で3時間くらい東に走り、ワンデュという町に行ってきました。往復6時間も山道の曲がりくねった道路を走っていると、気分が悪くなってきますが、何とか持ちこたえました。このワンデュという町で、赤飯を食べました。ブータンの御飯は赤いんです。まるで日本の赤飯のようですが、小豆は入っていません。日本の赤飯は小豆を入れるから赤い色になりますが、ブータン政府のラデン・ペマさんによると、ブータンの赤い御飯は元々そういう種類のお米なんだそうです。結構おいしかったです。

 それから、ヤクの干し肉も食べました。これはまるでビーフ・ジャーキーのようで、ビールのつまみに持ってこいですよ。ヤクという動物は、毛皮に覆われた牛の一種です。ブータンのような高地の厳寒地に生息しているので、寒さから身を守るために牛が進化して長い毛皮を身につけるようになったのかもしれません。地球温暖化のために、このヤクの生息地が減っているというのを、何かで読んだことがあります。

 その他に食べたブータン料理で美味しかったのは、「ケワ・ダツィ」というジャガイモをチーズで煮込んだような物です。これは本当に美味しくて、どんどん食べられます。この「ケワ・ダツィ」以外にも、ブータン料理はチーズを使った物が多いですね。それと、やっぱり唐辛子もいろいろな料理によく入っています。



GNPよりGNH〜国民総生産より国民総幸福 (2003/03/10)


 開発援助に携わる我々の間では、ブータンに関するちょっと有名な話があります。それは、「ブータンは国家の目標として『GNH(Gross National Happiness〜国民総幸福)』を追求する」と内外に宣言していることです。「GNP(Gross National Product〜国民総生産)」ではなくて、「GNH」です。要するに、国家の役割は経済一辺倒の発展を達成することではなくて、国民の幸福を最大限に導くことだという素晴らしいコンセプトです。

 このブータンの国家コンセプトは、僕なんかが聞くと非常に共感できて、正に国家の理想の姿のように思えますが、多くのエコノミストにとっては、とてもユニークでどうも訳のわからないものなんだそうです。そういったエコノミストの中には、「そもそも幸福の定義は何なのか」とか、「GNHが国家目標なら、その達成を測る指標はあるのか」といった質問をする人がやたらに多いです。特に、西洋的価値観に基づいた教育を受けてきた人は、こういうことを言うような気がします。今回ブータンに来てからも、僕のチーム内で似たような議論になりました。僕の個人的な意見を言わせていただければ、幸福の定義なんて一人一人違うんですよ。僕が幸せと感じることも、他人は幸せとは感じないかもしれないでしょ。あえて定義を探せば、「幸せとは、欲求と現状のギャップが小さいこと」を言うんでしょうね。欲が無く現状に満足していれば、貧しくとも幸せを感じることはできるでしょうし、逆に、いくらお金持ちで物質的に恵まれていても、欲が深ければ幸福感は少ないかもしれません。従って幸福感は精神的なものに大きく左右されるので、そんなものを測る指標なんてあるわけないのです。

 だからブータンを見習って、GNPなんていう指標で国家の発展度を測るのは、もうやめにしませんか。そもそも、経済的豊かさと幸福感の間に相関関係はあるのでしょうか。GNPが高い日本の国民は、GNPが低いブータンの国民より幸せなのでしょうか。GNPよりGNH。ヒマラヤの小国ブータンが、世界に大きな問いかけをしています。



ブータンのインターネット事情 (2003/03/11)


 ブータンではご存知のように1999年までテレビが禁止されていました。インターネットが解禁になったのも、やっぱり1999年です。この年はブータンにとって、情報メディア元年と言っても過言ではないですね。  その1999年に開業したブータン唯一のインターネット・サービス・プロバイダーは、「DrukNet(ドゥルックネット)」という名前です。実は先日、僕もこの「DrukNet」に加入しました。ブータンに来てからのこのHPの更新は、全て「DrukNet」のおかげです。僕が加入したのは短期滞在者向けで、加入から90日以内で最大20時間使用できるというカテゴリーです。これで、600Nuでした(ブータンの通貨単位はヌートラムといい、Nuと表す)。日本円に換算すると、約1500円くらいでしょうか。

 僕が滞在している首都ティンプーのホテルには、ビジネス・センターにコンピューターが一台置いてあってインターネットが使えます。これは一分間使用につき5Nu(約12円)です。ホテルのそばにはインターネット・カフェもあって、こちらは一分間につき2Nu(約5円)とられました。ブータンに着いて何度か、ホテルのビジネス・センターやインターネット・カフェでインターネットを試しましたが、どちらも恐ろしくスピードが遅いです。例えば30分間使用したとして、このうちの20分はただ画面が現れるのを待っている時間です。しかも当然ながら、ブータンのコンピューターでは日本語の読み書きができません。これではあんまり意味が無いので、思い切って「DrukNet」に加入したという訳です。今は、愛用の「DynaBook」から「DrukNet」にアクセスしてこれを書いています。

 2001年末時点で、「DrukNet」への加入者は約千人に達したそうです。ブータンの人口は約70万人ですから、インターネットの普及率は単純計算で700人に一人の割合です。首都ティンプーには、上で述べたようにインターネット・カフェも数軒あります。おそらくこれからはブータンでも、インターネットがもっともっと普及していくのでしょう。そうなったら、近代化の負の側面も含め、外国文化がどんどん入って来るのは避けられません。インターネットは、頑なに独自の文化を守ってきたブータンの社会にどう影響するのでしょうか。ITは、昨日書いたブータンの国家コンセプトである「GNH(国民総幸福)」に寄与できるのでしょうか。この答えが出るのは、もう少し先のようです。



ブータン人は体育会系 (2003/03/12)


 ブータン人の男性は、みんなとても健康的に見えます。太っている人が全然いないし、服の上から見ても、かなり鍛えられた体だなあと分かります。これは、僕が思うに山道を歩いて鍛えられた人が多いからじゃないでしょうか。山道だけじゃなく、街の中でもブータン人はよく歩きます。自動車もあんまりないし、エレベーターもないので歩くしかないのです。ブータンには、信号機がひとつもないと聞きました。そのくらい自動車が少ないのです。エレベーターのあるビルは、首都のティンプーでさえひとつだけだそうです。要するに、水平移動も垂直移動も、主要な交通手段は徒歩なのです。こんなに空気の薄い高地で、これくらい歩き回ると、かなり体が鍛えられるのかもしれません。

 ブータン男性のもうひとつの特徴は、短髪です。「もしかしたら、髪の長さが法律で決まっているのかもしれない」と思わせるほど、長い髪のブータン男性は全然いません。みんな丸刈りかスポーツ刈りのような髪型をしています。鍛え上げられた体に短い髪。ブータン男性は、みんな精悍な体育会系に見えます。



龍の国、犬の国 (2003/03/13)


 気づいた人もいるかもしれませんが、ブータンでは「Druk(ドゥルック)」という言葉にしょっちゅう出くわします。国営航空は「Druk Air」で、僕が滞在しているのは「Druk Hotel」で、街角の宝石店は「Druk Jewelry」で、この国唯一のインターネット・サービス・プロバイダーは「DrukNet」です。この「Druk」というのはブータンの言葉で「龍」という意味です。ブータンの人々は自国をなぜか「龍の国」と呼び、「Bhutan」と「Druk」という言葉はほぼ同義語のように使われています。ブータンの国旗にも、この「龍」が描かれています。

 この「龍の国」ブータンには、野良犬がやたらに多いです。「龍の国」というよりは、「犬の国」と呼びたくなるくらい本当に犬だらけです。犬が嫌いな僕にとって、快適なブータン滞在で唯一不快なことは、犬です。夜中でも犬が吠えまくって、とてもうるさい時があります。ブータン人もこの野良犬の多さには困っているようで、どうにかしたいそうですが、生類憐れむ仏教徒なので犬を殺すわけにはいかないということです。輪廻によって先祖が犬に生まれ変わっているかもしれないし、自分も将来は犬に生まれ変わるかもしれないからです。ブータン環境委員会のイェシェイさんによると、ブータンにいる多くの野良犬はインドから国境を越えてやってきた犬だそうです。不法移民ならぬ不法移犬だと笑っていました。ビザの発給が厳しく、外国人入国者数を制限していると言われるブータンも、犬にビザを発給するわけにはいかず、流入する犬を制限する有効な手段は今のところないようです。



ブータンにおける究極の男女平等 (2003/03/14)


 自転車で世界一周を成し遂げた友人のタツが、ブータンで出会った美女の名前はソナムさんでした。ところが、先日紹介されたブータン通信省・都市開発局のエンジニアの名前もソナムさんでした。こっちのソナムさんは、丸顔に丸刈りの男性です。で、気づいたのですが、ブータン人の名前には男女の別がないんです。男性のテンジンさんと、女性のテンジンさんもいました。男性のペマさんと、女性のペマさんもいました。日本でも「ひろみ」とか「ひかる」とか男女どちらにもある名前は存在しますが、ほんの少数にすぎません。ところがブータンでは、名前だけで性別を判断するのは難しいほど、男女共通の名前が多いんだそうです。これこそが、究極の男女平等というやつかもしれません。

 ブータンの社会が男女平等だということを示す例は、まだまだあります。ブータンでは、男性が複数の妻を持てるのと同様に、女性も合法的に複数の夫を持てるのだそうです。ただ、複数の配偶者を養うのは経済的に厳しいので、こういう例はごくごく稀だそうですが...。ちなみに、ブータンのワンチュク国王には4人の王妃がいらっしゃいます。

 さて、もうひとつ。今年は未年ですが、ブータンでは「雌の未年」ということになっています。来年は申年ですが、ブータンでは「雄の申年」なんだそうです。再来年が「雌の酉年」、その次が「雄の戌年」というように、毎年順番に雌雄が入れ代わるそうです。これは実に面白いですね。ここまで男女平等にこだわったブータンですから、男性と女性が交互に王位に就くという日もそのうちやってくるかもしれませんよ。



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